第4話 改造AD
「さあ、ここがお嬢さん方の部屋だ」
荷物を没収さた私たちは、男に連れられて狭く薄暗い部屋に通された。
「部屋って言うより…独房じゃない?」
「
「しまった」とでも言わんばかりに男は口元をおさえる。
私は彼のこぼした女性の名前に言及した。
「サラ?それがあの女の名前?」
「忘れろ」
「あなたの名前は知ってる【ソウル】でしょ?あの改造ADがそう呼んでた」
「やめろ」
ソウルはばつが悪そうに言う。
「いいか?俺達皆お前らを信用したわけじゃない、必要とあれば痛めつけることも許されてるんだ。だから軽率な態度には気をつけろ」
「ああ…ごめんなさい。でもお願い、私のペンダント。あれ大切な物だから返してくれな…」
ガチャンッ
言葉を
「行っちゃった…」
振り返り、部屋の中を見渡す。
他にあるものといえば、テロリストの仲間になりたいと血迷った女が1人だけ。
テセウスのファーストクラスから一変、私の顔は絶望に染まっていた。
「はぁぁ…」
眉間にしわを寄せ、ジッとリタを睨みつける。
そんな視線も意に介さず、彼女は剥がれた壁の塗装をなぞっていた。
「なんだか懐かしいですわね。あの男に買われる前、母と過ごした小さな家を思い出すような」
「は?」
「生活は
「……はぁ?」
こちらのことなど気にもせず、思い出話にふける身勝手ぶりに、
ついに私の感情が限界を迎える。
「アンタふざけてんの!?」
リタの肩を掴み、壁に押し付ける。
「アイツらテロリストなんだよ!?なんで仲間になりたいなんて言うわけ!?」
「ですから先ほど申し上げだ通り、わたくしもアーサー・テセウスへの復讐を望んでいますの」
「だからって私は”無関係”でしょ!復讐なんて一人でやってよ!」
私の言葉に、彼女はうつむいてボソリと言った。
「マリー。わたくしがいつあなたを無関係だと言いました?」
「え?」
「いつ言いました?」
たしかにここに来るまでの間、彼女は一度もそんな言葉を口にしていない。
なんなら私を巻き込んだことに対して
「ま…まさか…私が無関係じゃないって言うの?」
「ええそうですわ。今まで散々わたくしの
「はぁ?邪魔って?はぁ!?」
今度はリタが私の肩を掴み、反対側の壁に押し付ける。
「本当なら復讐は一人でするつもりでした。大学卒業時、優秀な成績を残した者はテセウス代表へ直々の面会を許される。それが最もあの男に近づくチャンスであり、復讐の機会だというのに…」
「だというのに…?」
「あなたは高等部のとき!持ち前の技術力で成績優秀!ついには特待生まで勝ち取ってしまった!!このままではあの男に近づくのがわたくしではなくなってしまいますわ!!!」
彼女のめちゃくちゃな発言に、
「えぇ…」
「そこで考えましたの。嫌な人間を演じ、徹底的にあなたを追い込んで進学を辞退させようと…」
「それで3年のとき嫌がらせしてきたのか…」
「ええ。でもあなたは全く動じなかった…脇目も振らずADの勉強に熱中して…その姿がまるであのお男の背中を見ているようで…憎たらしくて…」
そう言ってリタは力なく私の胸に顔を埋める。
「所詮復讐のために学んできたわたくしではあなたに
「何を?」
「あなたに協力してもらおうと」
「はぁ?」
私は首をかしげた。
「協力って…復讐に?私がすると思ったの?」
「しないでしょうね。状況は絶望的、諦めるしかないと思っていました。でもそこに彼らテロリストが現れ、あなたも一緒に連れてこられた。こんな絶好の機会を利用しない手がありまして?」
肩から手を離し、リタは無重力に身を任せる。
「ここにいる以上あなたは逃げることができない、つまり今、わたくしたちは強制的な協力関係にあるのですわ」
「でも…アンタの目的は私の成績なんでしょ?ここじゃ何の役にも立たないと思うけど?」
「あなたも見たでしょう?あの改造ADを。敬語を崩さない姿勢からして元は一般家庭用…本来人を傷つけるよう作られていない物をあそこまで変えてしまうなんて」
嫌な予感に、私の冷や汗が中を漂う。
「アンタ…まさか…」
「あのテロリストたちに付いていけば、きっと製造元にたどり着けますわ。そしてあなたとわたくしの技術があれば、アレをさらに上の段階へ昇華させられる。そうなればテセウスの施設を襲撃して企業そのものに痛手を与えることだって」
「ば…馬鹿なこと言わないで!私は改造ADを作るために勉強してきたんじゃ!」
「言ったでしょう!ここにいる以上協力する他ないと!わたくしは復讐を成し遂げるためなら、あなただろうと改造ADだろうと、なんだって利用する覚悟ですわ!!」
もはや彼女への反論は無意味だった。
身勝手を通り超し、復讐心で後退のネジが外れている。
そんな姿に諦めの感情を抱きつつ、私は最後に尋ねた。
「アンタ…なんでそんなに復讐したいの?」
「……」
一瞬の静寂。リタは目を閉じ、天を仰いでこう言った。
「あの男が…母を”殺した”からですわ」
◇
「お前大丈夫か?ひどい顔してるぞ?」
ソウルの言葉に、私は「ははは…」と
そうなってしまうのも無理はない。
慣れない環境に今後の不安、何より昨日リタが放った言葉のせいで
「それよりソウルさん、今日も一日独房なんですの?」
リタがそう言うと、彼はドアの窓越しにカードキーを見せた。
「今から開ける、妙な真似はするなよ?」
ロックが開き、リタは通路へと出ていく。
私も後を追って部屋を出ようとしたが、ソウルによって阻止された。
「一人づつだ。ボディーチェックさせてもらう」
右手に持った金属探知機でリタを上から下まで調べていく。
「何も持っていませんわ、荷物ならあなたがたが没収したじゃありませんの」
「念の為だ」
同じように私の体も調べられる。
そして探知機が右脇腹に差し掛かったとき、彼の手がピタリと止まった。
「………」
「あのー…どうかしました?」
「昨日のとこ、まだ痛むか?」
「え?まぁ…」
「そうか」とソウルは再び手を動かしてチェックを終える。
「異常なし、それじゃあこれからお前達に…」
彼が何か言いかけた時、通路の奥からはじめて聞く声が響いてきた。
「おーソウルちゃーん、その子らが新入りー?」
メガネをかけた作業着の女が近づいてくる。
彼女は私たちの前で止まると、突然覗き込むように顔を近づけてきた。
「ふーむ」
鼻と鼻が当たるほどの距離。
リタはたじろぎ「なんなんですの…」と後ずさる。
「あーいやいや、二人ともべっぴんさんじゃなーと思って」
「は…はあ」
「ソウルちゃーん?お嫁さんにするならこんな子どうなん?はよわたしに子供見してよー」
ソウルは無視するように話を進めた。
「今日はお前達を試させてもらうう。これはサラからの命令だ」
「試す?何を試すんですの?」
リタの質問に彼はこう答える。
「お前らがテセウスの『スパイ』じゃないか試すのさ」
「スパイ?スパイって…わたくしの生体コードはお渡しすると言ったではありませんか。それに昨日証拠だって…」
「確かに。だが全部作り話だったらどうする?テセウスは敵が多い企業だ。そのくらい捏造を加えた
「……」
「今日1日彼女についてエンジンルームの整備をしてもらう。それでお前らに不審な動きがないか確かめる」
「整備ですの?」
「ああ。捕虜とはいえ、何もさせず置いとくほどうちに余裕はないからな。ついでに技術も試せるなら効率がいいだろ」
「なるほど…信用していただくには時間がかかるということですわね」
説明が終わり、眼鏡の女が手を挙げる。
「はいはーい!それじゃここで自己紹介ねー、うちは【クロハ】この船のメカニックで、なんとソウルちゃんのお姉ちゃんなのです!」
「え?」
「え?」
突然の言葉に私たちはソウルへ視線を向ける。
確かに薄い茶髪に緑の
「おい姉貴!まだ言うなって言ったろ…」
クロハは笑う。
「あははーごめんごめん。でもこの子ら悪い子には見えんし、いずれうちらの”仲間になる”ならええじゃろ?リタちゃんにマリーちゃんじゃっけ?これからよろしくねー」
「よろしくお願いしますわ」
「よ…よろしくお願いします…」
「そんじゃ行こっか」と言うクロハの指示に従い、エンジンルームの方角を向く。
そして移動を始めようと床を蹴ったその時、ソウルが私の肩を「ガシリ」と掴んだ。
「お前はこっちだ」
「え?」
リタ達と反対方向を指差される。
「な…なんでですか?」
「お前にはやってもらうことがある」
手を掴まれ、奥へと進まされる。
後方には離れて行くリタ、前方には銃を背負った男の背中、私の不安は募る一方だった。
通路進んでいる途中、ソウルがピタリと立ち止まる。
「え、どうしたんですか?」
尋ねると彼はポケットを探りだし、「ほら」とあるものを手渡してきた。
「これって」
それは私が身につけていたペンダントだった。
「悪いが中身は見させてもらった。それ、大切な物なんだろ?」
ペンダントを指さす彼にコクリと頷く。
「覚えててくれたんですか?…でもどうして?」
「言ったと思うが女を殴る趣味はない。だからその…これはあのときの詫びだ」
その意外な行動に、私は驚きを隠せなかった。
彼らはテロリスト。映画のような奪って壊して目的のためなら手段を選ばない、そんな連中だと思い込んでいたからだ。
警戒しながらも、彼に対する率直な感想を伝える。
「ソウルさんて、もしかしていい人?」
「バカ違うな!これは自分のセオリーに反した罰だ…」
再び通路を進み、今度は彼が尋ねてくる。
「ペンダントの写真、一番左の顔を塗りつぶされた男。あれ父親か?」
言葉に詰まりながら答える。
「あー…はい…」
「何があったか知らないがそんな事するもんじゃない。家族は大切にしろ、いつ会えなくなるか分からないんだからな」
「……はあ」
しばらく進み、ソウルは目的地であろう場所で立ち止まる。
「さあ、ついたぞ」
たどり着いたのは錆びついた倉庫だった。
「……ここで何を?」
「入ればわかる」
そう言って彼は建付けの悪いドアに手をかけ、ギギギと音を立てながら開ける。
「さあ入れ」
言われた通り中へ入る、しかし暗闇で何も見えない。
それでも探り探りに前進を
「いった!なにこれ」
ぶつかった何かを手に取り、ペタペタと触って形を確かめる。
「これって…腕?」
掴んだのはADの腕だった。さらに周囲の物を掴むと今度はADの足が手の中にあった。
「なんなのここ…」
困惑する私の横で、暗闇に向かってソウルが声を上げる。
「おーい、明かりをつけてくれ」
すると、彼の声に反応するよう倉庫の中心に明かりが灯った。
そしてそこに現れたのは無数のADパーツと昨日私達に銃口を向け、ここに来る
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