1話【出会い】

20‪XX年、3月末


中学3年に進級する前の春休み。

これは中2の春休み…か?


世間では、Cocoi(ココイ)というアプリが流行っていた。


Cocoiは、「自分の好き」に正直でいられるってコンセプトで、推し・音楽・創作・読書・恋バナ・日常・感情整理まで。

同じ気持ちの人と繋がれる共感型SNSだ。


8つ上の姉ちゃんがやっているのを見て、僕もなんとなく始めてみた。


そこでは、いろんな人と繋がることができた。

現実では話せないような悩みも、SNSの中なら不思議と話すことが出来た。


同じ趣味を持つ人たちと、文字だけで繋がる感覚 それが、当時の僕には居心地が良かったのかもしれない。


そんな中、不思議な人と繋がった。


【葵宵(きよい)】


『俺も、水族館 好きなんだ。良かったら仲良くしてね』


突然のメッセージに少し驚いた。

…返信…した方が良いよね…?


えーっと…


「僕、こういうの慣れてなくて……。緊張するけど、よろしくお願いします」


こんな感じで良いのかな?


──送信


すると、直ぐに返信が来た。


『タメ口でいいよ!』


え、いきなりタメ口!?

年齢…聞いても良いよね…?


「え、え?でも……葵宵さん、お幾つですか?」


『28歳だよ!』


え!?28歳!?

めっちゃ、年上じゃん!?


「えっ…僕、14歳ですよ…?」


『良いから!ね、タメ口で話そう!』


……SNSって、色んな人がいるんだな。

まぁ、いっか。


「じゃあ……タメ口で話すよ?」


送信っと。


『うん、よろしくね、レイ!』


僕は人見知りだから、最初から砕けたテンションで関わってくる葵宵が凄いなと思った。

僕には兄がいないから、もし兄がいたらこんな感じなのかなって…

少し…思ったのを覚えてる。


それからは、Cocoiのメッセージでのやり取りだけではなく、LIMEでやり取りするようになり

お互いスタンプを送りあったり、電話で話したりするようになっていった。


────


「レイ、最近スマホ見ながらニヤニヤしてるけど……彼女、出来たの?」


姉ちゃんの突拍子もない問いかけに、僕は思わず目を丸くした。


そういえば葵宵と仲良くなってから、毎日連絡を取り合ってる。

学校から帰ってきて、ぼーっとしてる時間も減ったし…

葵宵からLIMEが来るたびに、顔が緩んでたのかもしれない。


「彼女は……できてないよ」


真顔で答えると、姉ちゃんが口をプクっと膨らませながら言った。


「なぁーんだ!つまんないのー!」


分かりやすい人だなー…


「……そういう、姉ちゃんは?」


「私はね~、って、ちょっと!ほら、またスマホ見てニヤけてるー!!」


だって、タイミングよく葵宵から連絡が来てたんだもん。しょうがないじゃん (笑)


「ごめん、姉ちゃん(笑)」


「もう!相手、誰なのよー!!!」


「ないしょ~♪」


姉ちゃんと話してる最中も、ついスマホに目が行ってしまう。

それだけ、葵宵との会話が楽しみだった。


やり取りの話題は、水族館やクラゲの話だったり、 僕の学校の話だったり 葵宵の会社のことや、彼女のことだったり。


いろんな話があるけど… どれも“僕が飽きないように”って、ちゃんと考えられてるような内容ばかり。


文の隅々にまで感じられる、優しさ。

返信しやすいように質問してくれたり、話題を加えて広げてくれたり。

だから、余計に読むたびに、自然と笑顔になってしまったのかもしれない。


葵宵と出会えた僕は世界一の幸せ者だな って、心から思ったよ。


……葵宵

あのときのこと、まだ一つも忘れてないよ。

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