第2話
次の日、放課後。珍しく彼は教室に残っていた。チラッと見えただけ、意識はしていない。
「でね、ここのスイーツが美味しかったんだよ〜!」
「そうなんだ〜。」
「みんなでさ、今度食べに行こうよ!」
「「「さんせーい」」」
……彼は、どうして残ってるんだろ?
「ねぇ、聞いてるの?」
「え、あ、私?うん、いいと思うよ。」
「じゃあきまりねー」
何の話だったか、あまり覚えていない。
「ちょっとお手洗い行ってくるね」
「いってらー」
「いってらっしゃーい」
自分勝手じゃ、なかったよね。いや、少し自分勝手だったかもしれない。
『そんなんじゃ友達はできないでしょ』
大丈夫、皆友達だから。だから——
手を洗い、教室に戻る。
「そう言えばさぁ、あいつ聞いてなかったよね。」
「うん、なんか上の空ーって感じー。」
「可愛いからって何でも許されると思ってたりして」
「それぶりっ子じゃーん。」
「でもー、そんなところあるよねー。ちょーっと自分一番って感じするー」
「ねー。」
……聞きたくなかった。今私が入ったら多分平気な顔をして、おかえりと言うのだろう。
「そんなの、もう嫌だよ……。」
誰にも、聞こえない声、この声は、誰にも——
「ねぇ、君たち。」
綺麗な声だ。
「他人の事を平気で貶すのはどうかと思うよ。」
「カッコよ……」
「ねぇ、こんなイケメンうちのクラスにいたっけ!?」
彼女たちの声が少し高くなっている。そっか、やっぱり、こういう人たちだったんだね。
「僕はそれだけ言いにきたんだよ。君たちの事は、好きになれなさそうだ。」
「えー?私たち可愛いんだよ〜?」
「あんな女が好きなの?」
「可愛い?どこが?」
彼の言い方はキツい気がする。でも、多分私のためなんだよね。
「性格が可愛くないんだよ。陰口を言う人を好きになる趣味はないからね。」
彼は席に戻って眼鏡とカバンを持った。そして、廊下に出てくる。
「待って。」
「待たない。あと、感謝はいらない。」
「……そっか。」
「ああ、そうだ。」
彼は思い出したように言う。
「今週の土曜日、晴れだって。」
「へ……?」
「またね。」
言葉を返せなかった。
教室に戻り、カバンを持つ
「あ、おかえりー」
「帰るから。もう、いいや。」
自分勝手、分かってる。他人の事があまり見えていないし、話を聞けてない。分かってる。今までに友達と呼べるほどの関係になった人はいない。みんな、離れていってしまった。
「どうすれば、いいんだろう。」
だからいっぱい考えて、考えたのに……まだ、足りないの?
溜め息を吐いて歩く。
……そういえば、今週の土曜日が晴れって、どういう事なんだろう。明後日、だよね。
「……本当に晴れだ。一日中、ずっと。」
何かに誘おうとしてる……?何に……あ——
「覚えてて、くれたのかな。」
少しだけ、楽しみになった。
・・・
今日は朝早くに学校に着いてしまった。
教室の扉を開けると、彼がいた。
「おはよう。」
「あ、おはよう。」
「……昨日は、ありがと。」
「感謝はいらないって言ったよ。」
「それでも、言いたかったから。」
「そっか。」
少しだけ、心がスッキリしたから、そのお礼。
「そうだ、明日はどうするの?」
「意味が分かったんだね。」
「うん。君こそ自分勝手じゃない?とも思ったよ。」
「そうかもね。」
ずいぶんあっさり認める君は、少し笑っていた。
「覚えててくれたんだ。」
「君があの時の子だとは気づけなくてごめん。」
「ううん、大丈夫だよ。気づいてくれてありがと。」
「約束を果たそう。」
「うん、あの日の約束を。」
その日、私に話しかける人はいなかった。私は彼と話していたから。思い出話とか、明日の集合場所とか、色々。
そして、土曜日になった。
「おまたせ。」
私よりも先に彼が先に来ていた。
「全然待ってないから大丈夫だよ。」
「そっか、なら良かった。」
切符を買い、改札を入り、電車に乗る。
「前はなけなしのお小遣いで切符を買ったんだよね。」
「そうだったね、切符を買えなくて少し焦ったよね。でも今は——」
「うん。ちゃんと買えたしちゃんと乗れる。」
もう昔とは違う。10時くらいまで外出しても怒られない歳にもなった。今日は心置きなく星を見るんだ。——彼と、一緒に。
「楽しみだね。」
・・・
駅に到着した。ここから少し歩き、海岸に向かう。辺りは真っ暗で、ぽつぽつと並ぶ街灯しか灯りがない。
「……ここ、だね。」
波はない。月は半月、上弦だ。
「月の事は考えてなかったなぁ」
「でも、見て、とっても綺麗じゃない?」
空を見上げると、一面に星が並んでいた。どこを見ても星、星、星。たまに月。
「海にも、少し反射してるよ。」
「わぁ……本当だ!」
波は穏やかで、ほとんどない。真っ直ぐ前を向けば、空の星に、海の星、両方が見えてお得だ。
「あ、流れ星。」
「え、どこ?」
「もう消えちゃったよ。」
ずっと、ずっとここで眺めていたい。視界いっぱいに広がる星たちを。
「ねぇ。」
「なに?」
断られるかもしれない。ずっとここにいたい。それは叶わないから、私は——
「また一緒に、星を見よう。2人で、一緒に。」
「うん、見よう。いろんなところ回ってさ、綺麗な星空を見よう。」
「ふふ、約束!」
「うん、約束。」
自分勝手でも、構わない。私には、彼がいる。少しずつ、直していけば良いんだ。
彼は小指を立てる。
「次は秋頃がいいな」
なんて言いながら、笑う。
「そうだね。」
つられて私も笑う。
「「約束。」」
あの日交わした約束を、もう一度——
あの約束を、もう一度。 夜影 空 @koasyado2
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