あの約束を、もう一度。
夜影 空
第1話
『あ、ながれぼし!』
『きれいだね!』
ずっと、ずっと眺めたかった。月明かりに、星空が、穏やかな海に反射する。
『ねぇ、大きくなったらさ、また見に来ようよ』
『うん、また、ここで見よう!』
『約束だよ!』
『うん、約束!』
小指を交わす。
・・・
……夢……
あの後、お母さんに見つかって、こっ酷く叱られて。彼と、会えなくなって。約束を、忘れて。
——今頃になって、思い出してしまった。多分、あの人と再会したから。彼を、見てしまったから。どうして今頃になって再会してしまうんだろう。思い出してしまうんだろう。
綺麗な制服に袖を通し、朝ごはんを食べ、眼鏡を外し、コンタクトを入れる。そして玄関を開け、学校に行く。
「いってきます。」
彼と再会したのは入学式の直後、教室で。自己紹介の時に顔をみて、思い出した。星空のこと、約束の事。話しかけに行こうとした。けれど、躊躇ってしまった。もし覚えてなかったらどうしよう。そんな気持ちが先行してしまって。気づいたら周りを囲まれていた。綺麗だとか、美少女だとか、そう言われて、友達になって欲しいと。様々な人に囲まれて、気づいたら彼を見失っていた。話す機会は訪れず、今日まで先延ばしにしてしまっている。
今日こそはと思いつつ、タイミングが見つからないのだ。今日はもう捨て身で行こうと思う。周りがなんと言おうと、話しかけたい。
朝早く家を出て、彼を待つんだ。絶対に、今日こそ話しかけて、話しかけて——。第一声は、何が良いのだろうか。
玄関に着き、靴を履き替え、教室に向かう。
久しぶり、は相手が覚えていなかったら嫌だし、良い天気だね、は意識し過ぎているように感じる。なんて話しかければ——
「きゃっ……ふー、危なかった。」
階段を一段多く登ろうとしてしまった。階段で考えるのは危ないなぁ。教室で考えよう。
教室は4階にあるため少し大変だった。
教室の扉を開け、中に入る。まだ誰もいないはずだ。——そう思っていたのに、1人だけ先客がいたようだ。
「っ〜〜!?」
彼だ、話しかけると決めた人だ。こんな朝早くからいるなんて聞いてない!眼鏡を外して読書中のようだ。
「お、おはよう。見えてるの?」
「え……君、僕の事が見えてるの?」
え?あれ?
「なに……それ。え……?」
「冗談だよ。そういうシーンがあったからちょっとしたイタズラ。」
「なんだ、良かったぁ。」
というかこの人ちょっと失礼じゃない?急にイタズラを仕掛けてくるとか
「ごめんて。そんな怒った顔しないで。せっかくの美人が台無しだよ。」
「冗談?」
彼はまだ一度も私の顔を見ていないのに、言い切るなんて。覚えててくれてるのかな?
「そうだ、最初の質問の答えがまだだったね。答えはイエスだ。見えてるよ。だってこれ、伊達だし。」
無視されて話を逸らされた。
「伊達なのに、掛けてるの……?」
伊達眼鏡をかけるなんて、オシャレなのかな?でもこの眼鏡はまるで——
「どうして、そんな眼鏡を……?」
「どうしてって……人とあまり関わりたくないからだよ。嫌悪感があるんだ。」
「じゃぁ、なんで今私と話せてるの?」
会ったことがある、そんな答えを望んでいた。けれど、現実は無情で。
「嫌悪感を感じないから、だね。どうしてだろう。」
「そっか、私、人から好かれやすいからかな?」
「違う、もっとこう、別の何か——」
廊下から足音が聞こえた。
「そうだ、一つ言っておくよ。もう僕に話しかけて来ないでくれないか?君と僕は釣り合わない。だから——」
「いやだ。」
「周りがなんて言ってくるか」
「そんなの気にしない。私は、君と話したいから。」
「……じゃあ好きにしてくれ。」
彼は初めて顔を上げた。
「君の人間関係が壊滅しても責任を負わないからな。」
カッコいい。不覚にもそう思ってしまった。
「……うん。」
何を言われたのか覚えていない。ただ眩しかった。
彼は眼鏡をかける。かっこいいと言えばかっこいいが、少し落ち着いた好青年といった感じになった。
「話せて良かったよ。今日はもういいかなー。」
「自分勝手だな、そんなんじゃ友達はできないでしょ」
「もう君がいるでしょ。」
「は!?友達になった覚えは——」
「そっか、覚えて、ないんだね。」
私は背を向けて席に戻る。
・・・
「なんだよ、それ……」
彼は誰にも聞こえない声で言った。
「寂しそうな表情だったな。」
覚えてないって、いったい——まさか——
彼は、息を呑んだ。しかし、彼女の周りは人だかりができており、とても入れそうにない。
「……」
・・・
「あーあ、バカみたい。」
カバンを置き、ベッドに顔だけ乗せる。制服にシワを作りたくないからだ。
「私だけ覚えてるとか、バカみたいだぁ!」
あの後彼を避けてしまって、話していない。
「はぁー……とりあえず着替えてお風呂入ろ……」
もう、話さなくてもいいのかな。友達じゃ、ないみたいだし。
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