12-6

 優奈の家を後にして、教えてもらったお寺までやってきた。


「優奈……」


「伊坂家之墓」と刻まれた墓石の前で、途中で買ってきた花を添える。優奈に似合う、黄色いひまわり。太陽に向かってまっすぐに突き進んでいくひまわりが、いつだって明るい輝きを放っていた彼女にぴったりだと思った。

 私は、左手に巻いた彼女とお揃いのブレスレットを空にかざす。太陽の光を浴びてきらりと光るそれを見ながら、持ってきたもう一つのブレスレットをお墓に供えた。先ほど、優奈のお母さんから「夕映ちゃんがお墓に供えてきて」と言われてもらったものだ。二人の絆がまたひとつ、晴れた空の下で輝いている。


「優奈、あのね。じつは今日、優奈の家に行ってきたよ。おばさんに会って大切な言葉をもらったの。優奈のこと、改めて大事な友達だって再確認したよ」


 墓石に水をかけると、ピカピカと日の光が反射して輝き出す。まだこの墓石が建てられて一年と少ししか経っていないというのもあるけれど、手入れの行き届いたこの場所に、優奈の家族の愛が感じられる。ゆっくりと手を合わせて目を閉じた。


「それからね、私、夏に瑠伊と一緒に短歌絵画コンクールに応募したの。その結果が今日出るから、今から一緒に見てくれる?」


 そう。どうして今日、優奈の元を訪ねようと思ったかというと、短歌絵画コンクールの結果発表の日だからだ。

 最初は瑠伊とビデオ通話をしながら結果を見ようかと話していたのが、瑠伊が今日一日忙しいのと、時差の関係で通話はできなさそうということで、優奈と一緒に見ることを思いついたのだ。瑠伊も瑠伊で、今頃結果を確認していることだろう。

 結果発表は今日の十六時。主催者のHPを開き、スマホの時計が「16:00」になるのを待った。

 画面をリロードすると、「短歌絵画コンクール結果発表」というタイトルがドンと表示される。映し出された結果に、じっと目を凝らした。



『この度は、弊社主催の「短歌絵画コンクール」に多数の応募をお寄せいただきまして、誠にありがとうございました。皆様からの熱い想いのこもる作品の数々に、審査員一同、大きく心を動かされました。その中でも、特に優れた作品に下記の賞を授与いたします』


 前書きを読んで、視線を下へと動かしていく。

 心拍数がどんどん高まる。胸をぎゅっと抑えながら、「大賞」「優秀賞」「佳作」といった項目の作品名と応募者の名前に目を通していった。


「……」

 

 果たして私たちの作品と、二人の名前は——載っていなかった。

 ふう、と息を吐いて空を見上げる。夕暮れ時の秋の空は夏のそれよりもずっと近くに感じられる。青から橙色に変わっていく空の色に、しんみりとした心地にさせられた。


「まあそうだよねえ」


 初めて応募して、いきなり賞をもらえるほど熟練できていたという自信はなかった。それでも、瑠伊の絵は本物だったし、私も、下手なりに精一杯考え抜いてつくった短歌だった。 

 自分の無力さを嘆きたくなるけれど、世の中にはもっと素晴らしい作品をつくる人たちがいたというだけのこと。結果よりも、二人で一つのものを作り上げたという過程にこそ価値がある。だから、悔しくはない。悔しくなんか……ないはずだ。


「ううっ……」


 気がつけば両目から涙があふれていることに気づいた。

 瑠伊と二人で、ぶつかりながらつくった作品はあっさりと審査に落ちてしまった。

 そのやるせなさが全身にぶわりと湧き上がる。

 瑠伊、ごめんね。

 せっかく瑠伊が頑張って絵を描いてくれたのに。

 私は、瑠伊と潮風園芸公園に行った思い出もなくしてしまったというのに、結果も残すことができないなんて。あなたにもう顔向けできない。

 思考はどんどんネガティブの穴にはまり、そこから動けなくなっていた。こんな情けない姿を優奈の前で晒していることに羞恥心すら覚えるのに、身体が言うことを聞かない。

 ああ、これで終わりかあ。

 私たちの夏は、いつのまにかあっさりと過ぎ去っていたんだな。

 意気消沈したまま心が落ち窪んでいたそのとき、スマホの着信が鳴った。


 画面を見ると、相手は他でもない瑠伊だ。

 そっか。瑠伊も結果を見たんだ。なんて言われるんだろう……怖い気持ちもあるけれど、大切な人からの電話を無視するわけにはいかない。そっと通話ボタンを押して、スマホを耳に押し当てた。

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