第14話 血煙の中の誓い

夜明け前の灰色の空の下、校舎の中庭は血の匂いと腐臭に覆われていた。斬牙はまだ温もりの残る刀を握りしめ、肩で息をしている。

彼の周りには、すでに動かなくなったゾンビの山。だが、その数を減らしても減らしても、波は途絶えない。


「クソッ……! 本当に終わりがあるのか……!」


仲間の拓真と美優も必死に戦っていた。美優のクロスボウの矢が一本一本、確実にゾンビの頭を貫き、拓真は鉄パイプを血に染めながら振るう。

だが彼らの体力は限界に近い。


そのとき――。


校舎の奥から、耳を裂くような咆哮が響いた。

現れたのは、通常のゾンビより一回り大きな「異形」。皮膚は硬質化し、腕は異様に肥大化している。まるで鎧をまとった鬼のようだ。


「……ボスかよ」拓真が呟く。


斬牙の胸の奥に、奇妙な熱が走った。

視界が霞む中、彼は前世の記憶を垣間見る――戦国の戦場で、巨大な鬼を斬り伏せた侍としての己の姿。


「……ここで退けば、仲間が死ぬ。俺が、斬る!」


斬牙は仲間を庇うように前へ出る。鬼のようなゾンビが振り下ろす腕を紙一重で避け、その瞬間、刀を閃かせた。

金属を裂くような手応えと共に、血煙が舞う。


だが一撃では倒れない。異形は咆哮をあげ、さらに狂暴さを増して迫ってくる。


「斬牙! 無茶だ!」美優の叫びが飛ぶ。


斬牙は振り返らず、ただ低く呟いた。

「俺が前に立つ。お前たちは、生き延びろ……!」


その言葉は、ただの意地ではなかった。

彼の中で「侍」としての誓いが再び燃え上がっていた。


次の瞬間、斬牙は地を蹴り、異形へと突撃する。

血煙の中、刀と怪物の衝撃がぶつかり合い、夜明けの空を裂くような轟音が響き渡った。

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