第11話 血風の追走
月明かりが差し込む廃工場。
斬牙の刀が振り抜かれ、腐肉をまとったゾンビの首が宙を舞った。生臭い血煙が夜気に溶け、鉄の匂いが鼻をつく。
だが倒しても倒しても、奥から呻き声が響いてくる。
「……数が多すぎるな」
斬牙は汗を拭う暇もなく、再び構えを取り直した。
背後では仲間の少年・駿と、犬のクロガネが必死に応戦している。
クロガネの牙がゾンビの腕を噛み砕き、駿の振るう鉄パイプが骨を砕く。しかし、それでも波のように群れは押し寄せた。
──その時。
頭上の梁から、異様に大きな影が降り立った。
ゾンビの群れより一際巨大なそれは、全身を鎧のような骨で覆った“強化個体”。目は真っ赤に爛々と輝き、まるで斬牙を狙っているかのように唸り声を上げた。
「来たか……“血風鬼”」
斬牙は低く呟き、刀を鞘に収める。
──静寂。
次の瞬間、彼の身体が閃光のように前へ。
“居合斬り”。
だが、血風鬼は腕を盾にして受け止め、鋭い爪で反撃してきた。
金属を引き裂く音と共に斬牙の肩口が裂け、鮮血が飛び散る。
「兄貴っ!!」
駿が叫び、クロガネが飛びかかる。だが血風鬼の尾のような骨の突起が薙ぎ払い、二人は壁に叩きつけられた。
「……下がってろ。こいつは、俺が斬る」
斬牙は血を拭い、静かに刀を持ち直す。
前世の記憶──戦国の戦場で幾度となく死地をくぐり抜けた侍としての魂が、彼の内で燃え上がる。
「斬牙流──奥義、《嵐刃》」
次の瞬間、工場内に突風が巻き起こった。
疾風のごとき連撃が血風鬼の骨鎧を切り裂き、赤黒い体液が四方に飛び散る。
血風鬼は断末魔の咆哮を上げ、崩れ落ちた。
静まり返る廃工場。
斬牙は肩で荒い息をしながらも、刀を鞘に収めた。
「……まだ、これは始まりにすぎねぇ」
外の夜風に混じって、さらに遠くから無数の呻き声が聞こえてきた。
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