第10話 血煙の決断

夜の校舎。月明かりに照らされて立つ斬牙の背後には、仲間の息遣いがあった。

 廊下の奥からは腐臭と共に、無数のゾンビの足音が近づいてくる。


「数が多すぎる……!」

 クラスメイトの一人が悲鳴に似た声をあげる。


 だが斬牙の瞳は冷えていた。

 ──前世の記憶が脳裏に浮かぶ。血煙の戦場、槍衾を斬り裂いた日々。


「ここで退けば、外にいる人間まで喰い尽くされる」

 低く呟き、刀を抜く。


 刹那、空気が裂けた。

 斬牙の一閃は、走り込んできたゾンビの群れを一気に両断する。血と腐肉の臭いが弾け、廊下が赤黒く染まった。


「……やっぱり、あんた普通じゃないな」

 背後でクラス委員の少女・紗耶が息を呑む。


 斬牙は振り返らずに答えた。

「俺のことはどうでもいい。ただ生き延びろ」


 その瞬間、床を突き破って巨大な影が現れた。

 腐りきった巨体、腕は異様に肥大し、口からは唸り声が漏れる。


「……特級の“変異種”か」

 斬牙は刀を構え直した。


 だが背後の仲間たちは青ざめる。逃げ場はない。戦うか、全滅か。


 斬牙は深く息を吐き、心に決断を刻んだ。

 ──この力を解き放てば、もう普通の高校生には戻れない。


 それでも。


「俺が斬る」

 刀に月光を宿し、斬牙は前へ踏み込んだ。


 廊下に轟音が響き渡り、血煙の決戦が始まった。

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