第9話 紅き月の咆哮

夜空に浮かぶ月は、不気味に赤く染まっていた。

 斬牙は校舎の屋上に立ち、眼下に広がる無数のゾンビを睨みつける。まるで獣の群れのように蠢き、ひときわ大きな影が群れの中心で吠えていた。


「……来やがったな。“異形”の上位種か」


 ゾンビの群れを束ねる存在――全身を鋼鉄のような皮膚で覆われ、片腕が巨大な鎌と化した怪物。それはただのゾンビではなく、知性を持った“鬼屍”だった。


 隣には仲間の 真白 と 豪。

 真白は弓を構え、豪は拳を鳴らす。

 しかし斬牙の胸中には、彼らを守れるかという不安が渦巻いていた。


 赤い月の下、刀を抜く。

 前世、侍として無数の戦場を駆け抜けた感覚が蘇る。血の匂い、鋼の重み、そして死と隣り合う冷たい気配。


「俺が前へ出る。二人は援護を頼む」

「無茶するなよ、斬牙!」

「……大丈夫。ここで退けば、町が終わる」


 鬼屍が咆哮し、地響きと共に飛びかかってきた。

 刹那、斬牙の身体は自然に動いた。

 月光を背にしながら、鋭い剣閃を放つ。


「――斬牙流・影裂きッ!」


 刀が残像を残し、鬼屍の鎌腕を切り裂く。

 黒い血が飛び散り、怪物が怒声を上げた。


 しかし戦いは終わらない。

 群れのゾンビたちが四方から押し寄せ、屋上は瞬く間に戦場と化した。

 真白の矢が唸りを上げ、豪の拳が骨を砕く。だが数は尽きない。


「数が……多すぎるッ!」

「くそ、押し切られるぞ!」


 追い詰められたその時――

 斬牙の瞳が紅く輝いた。

 赤い月に呼応するかのように、前世の“侍の魂”が完全に覚醒したのだ。


 刀を握る手に、異様な力が宿る。

 空気すら震える殺気。

 鬼屍がわずかに怯む。


「――俺は、退かぬ。侍の誓いにかけてッ!」


 叫びと共に斬牙は踏み込んだ。

 紅き月の下、鋼と鋼がぶつかり合い、夜の闇を裂く激闘が始まる――。

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