第8話 巨影、月下に現る

夜の校舎。

 窓から射し込む月光が、床に長い影を落としていた。

 その静寂を切り裂くように、低く呻く声――ゾンビの群れが、体育館へと迫っていた。


「クソッ、数が多すぎる……!」

 仲間の一人、亮が肩で息をする。すでに制服は裂け、血で汚れていた。


 斬牙は一歩前へ進み出る。

 彼の手に握られるのは、時代を超えて蘇った愛刀・黒鋼(くろがね)。

 前世がサムライであった記憶が、彼の身体を自然に動かしていた。


「心配はいらねえ。ここは俺が斬る」


 刀を構えると同時に、ゾンビたちが牙を剥き突進してくる。

 次の瞬間、黒い刃が閃いた。


 ――ザシュッ!


 前列のゾンビの首が、一息に飛ぶ。

 返す刀で胴を裂き、さらに跳ねた血飛沫を踏み台にして背後の二体を斬り裂く。

 その動きは、人間技を超えた速さと鋭さだった。


「さすが斬牙……!」

 仲間たちが息を呑む。


 だが、数は減らない。

 体育館の扉を破って、新たな群れが雪崩れ込んできた。

 その中に、異様な影があった。


 他のゾンビよりも一回り大きく、筋肉が膨張した巨躯。

 両目は真紅に輝き、口からは蒸気のような息を吐いている。


「……ボスか」

 斬牙は低く呟いた。


 巨体のゾンビが吠えると、周囲のゾンビたちも狂ったように動きを増す。

 仲間が一瞬押され、後退した。


「おい、あれ……勝てるのかよ!?」

「逃げた方が――」


「逃げねえ!」

 斬牙の声が、全員の迷いを断ち切った。


 彼は黒鋼を正眼に構える。

 月光が刃に映り、鋭い光を放つ。


「俺が前世で何者だったか――今、思い出させてやる」


 巨体ゾンビが突進する。

 体育館の床が震え、ガラスが割れる音が響いた。


 斬牙は踏み込み、ただ一閃――。


 光と闇を裂く斬撃が、戦場を支配した。

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