第7話 操り人
巨躯の変異種が咆哮を上げ、瓦礫の山を拳一つで粉砕した。
吹き荒れる風圧に斬牙の前髪が揺れる。
その背後のビル屋上では、黒衣の男が薄ら笑いを浮かべたままこちらを見下ろしている。
「斬牙……前世の侍とやらの力、どれほどのものか試させてもらおうか」
男の声は奇妙に響き、鼓膜の奥に直接染み込んでくるようだった。
黒鉄が低く唸り、斬牙の前へ出る。
犬の鋭い直感が告げていた――この男こそが、群れを操る元凶。
「……お前、何者だ」
斬牙は問いかける。
だが男は答えず、赤黒い勾玉を掲げると、不気味な気配が街に広がった。
瓦礫の陰から、さらに数十体のゾンビが這い出てくる。
彼らの目は血のように赤く染まり、まるで一体の生き物のように斬牙を取り囲んだ。
「勾玉で……意思を縛っているのか」
斬牙の脳裏に、前世の記憶が一瞬よぎった。
戦国の世、陰陽師の一派が用いた禁呪――魂を縛り、死者を操る術。
その力が、今の時代に蘇っているのだ。
「お前らの世では”呪禁の術”と呼んだかな。だが俺はそれを越える」
黒衣の男は愉快そうに笑い、指を弾いた。
巨躯の変異種が突進してくる。
轟音。
斬牙は横跳びにかわし、地面を蹴って反撃の一閃を放つ。
鋭い斬撃が巨体の胸を裂いた。
だが、再生――。
その隙に、黒鉄が変異種の足首へ食らいつき、体勢を崩させた。
「よくやった、黒鉄!」
斬牙は踏み込み、体をひねる。
必殺の居合い斬り――前世で「龍牙断ち」と呼ばれた技が放たれた。
光の刃が一瞬走り、変異種の首が宙を舞う。
だがその直後、黒衣の男の勾玉が妖しく光を放ち、切断された肉体が再び繋がっていった。
「……ほう。さすが侍。だが俺の術に抗えるか?」
男の瞳が赤く光る。
次の瞬間、周囲のゾンビたちが一斉に動きを止め、斬牙を睨みつける。
そのうちの一体――否、かつての人間の顔に見覚えがあった。
「……っ!? まさか……」
斬牙の目が揺れる。
それは学校のクラスメイト、拓真の顔だった。
すでに理性はなく、ただ操られるままにこちらへ手を伸ばしている。
刀を握る手に迷いが生じる。
その隙を、黒衣の男は逃さなかった。
「さあ侍……仲間を斬れるか?」
黒煙に包まれる街で、斬牙の決断が迫られていた――。
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