第6話 黒煙の街

夕暮れ。オレンジ色の空の下、街全体を覆うように黒い煙が広がっていた。

 焦げた匂いに混じって、腐敗臭が漂ってくる。

 斬牙は刀の柄に手を添え、隣を歩く黒鉄(くろがね)の耳がぴくりと動くのを見た。


「数が多いな……。どうやら街ごと囲まれているらしい」

 斬牙の声は低く、しかし確信を帯びていた。

 黒鉄は低く唸り声をあげ、牙を覗かせる。


 視界の先、煙の向こうから現れたのは、皮膚が裂け、眼だけが光る群れ――ゾンビ。

 その足音が地面を揺らすように近づいてくる。

 中には、異様に大きな影も混じっていた。腕が柱ほどもある、巨躯の変異種だ。


「……あれは普通の刀筋じゃ落とせないな」

 斬牙は肩を回し、ゆっくりと鞘から刀を抜いた。

 その刃は夕陽を反射し、血のような赤を帯びる。


 群れが一斉に走り出す。

 黒鉄が吠え、先陣を切るように飛び出した。

 鋭い牙が一体の首を噛み砕き、斬牙がその背後で舞うように刀を振るう。

 刃は空気を裂き、腐肉と骨を容易く断ち切った。


 しかし巨躯の変異種は倒れない。

 腕を振り下ろすたび、アスファルトが砕け、衝撃波のように瓦礫が飛び散る。

 斬牙は足場を蹴り、宙で一回転しながらその腕を斬り落とす――だが、黒い瘴気が傷口から溢れ、瞬く間に再生してしまった。


「再生能力……面倒だな」

 額に汗を浮かべつつ、斬牙は後退する。

 その背後で、黒鉄が尻尾を振り、何かを知らせるように短く吠えた。


 振り返った斬牙の目に、ビルの屋上からこちらを見下ろす黒衣の男の姿が映った。

 その男は不気味に微笑み、手の中で赤黒い勾玉を弄んでいる。


「お前が……操っているのか」

 問いかける斬牙に、男は答えず、ただ指を鳴らした。

 次の瞬間、変異種の動きが一段と速くなる。

 そして黒煙の向こうから、さらに別の気配――三つ、いや四つの強敵が迫ってくるのを斬牙は感じ取った。


「……どうやら今夜は、眠れそうにないな」

 斬牙は口角を上げ、再び構えを取った。

 黒鉄も唸り声を重ね、並んで前へ踏み出す。


 黒煙の街で、今夜の戦いが始まる――。

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