第5話 「血潮の契り」
夜の校舎裏。
月明かりが淡く地面を照らし、風が腐臭を運んでくる。
斬牙とクロガネの周囲に、再びゾンビたちが群れを成し始めていた。
「……さっき片付けたはずだろ」
斬牙は刀を構えながら低く呟く。
すると、群れの奥から異様に背の高い影が現れた。
腐った軍服、ねじれた骨格──その目には赤い光。
「中佐級(ちゅうさきゅう)か……」
クロガネが唸る声が低く響く。
軍服を着たゾンビは、通常種の数倍の力を持つ厄介な相手。
しかも知能まで残っている可能性がある。
「坊主、あれは一人じゃ危険だ」
「わかってる。でも、逃げたらまた誰かが食われる」
斬牙は地面を蹴った。
刀身が月光を弾き、ゾンビたちの間を一直線に駆け抜ける。
──しかし。
軍服ゾンビの腕が唸りを上げ、鉄柱のように振り下ろされた。
衝撃で斬牙の刀が弾かれ、右肩に鈍痛が走る。
すぐさまクロガネが飛び込み、巨体に噛みついたが、相手はまるで意に介さず、そのまま腕で犬を振り払った。
「クロガネ!」
斬牙の叫び。
だが、軍服ゾンビはその隙を狙って迫ってくる。
(……間に合わない)
その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
脳裏に、血と炎に包まれた戦場の記憶が流れ込む──
前世の自分、侍・斎藤真之介(さいとう しんのすけ)が刀を握り、仲間と「血の契り」を交わす光景。
「……そうか」
斬牙の目が鋭く光る。
次の瞬間、彼の体から淡い蒼炎が立ちのぼり、刀の刃が妖しく輝いた。
「斬牙流──『月影(つきかげ)・双閃』ッ!」
蒼い残光が夜を裂き、軍服ゾンビの首と胴が同時に切り裂かれる。
巨体が崩れ落ちると、周囲のゾンビも怯えたように後退していった。
荒い息をつく斬牙の足元で、クロガネが尻尾を振る。
「坊主……今の、まるで前の戦の時みたいだったな」
「……たぶん、思い出したんだ。俺が本当に戦っていた理由を」
遠くで鐘の音が響く。
それは、まだ終わりではないことを告げる合図だった──。
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