第4話 影走る

夕陽が赤く染まり、廃墟の街に血の色を落とす。

 斬牙は屋上から街を見下ろし、息を潜めていた。クロガネは横で伏せ、耳をピクリと動かしている。

 「……来るな」

 低く呟いたその瞬間、遠くから不気味な呻き声が重なって響いた。


 ゾンビの群れ――ではない。

 黒い影が地面を疾走してくる。人間の形をしているが、動きは異様に速い。

 「走りゾンビ……か?」

 次の瞬間、その影はビルの壁を駆け上がり、斬牙の目の前に飛び降りた。


 着地と同時に、銀の閃光。

 反射的に刀で受け止めると、金属同士がぶつかる澄んだ音が響く。

 「……人間?」

 現れたのは、黒い忍装束をまとった青年だった。

 「アンタが“斬牙”か」

 声は低く、しかし妙に落ち着いている。

 「噂は聞いた。ゾンビを斬りまくる狂犬侍……」

 青年は薄く笑った。

 「俺は“影丸”。アンタに用がある」


 話を聞く間もなく、下から地鳴りのような音。

 路地の奥から、異形のゾンビが這い出してくる。体格は人の三倍、腕は異常に長く、目は真っ赤に光っていた。

 「お喋りは後だ。デカブツが来る」

 影丸は短刀を逆手に構える。


 斬牙は刀を抜き直し、クロガネが低く唸った。

 巨体ゾンビがビルを揺らしながら突進してくる。

 「クロガネ、右から回れ!」

 黒い巨犬が影のように走り、斬牙と影丸は同時に飛び出す。


 剣と短刀が閃き、獣の牙が肉を裂く。

 戦いの中で斬牙は気づく――影丸の動きは、まるで人間離れしている。

 跳躍、回転、そして的確に急所を突く技……それは古流剣術に似ていた。


 巨体ゾンビが絶叫と共に崩れ落ち、地面に血煙が広がる。

 「……悪くない腕だな」

 影丸が笑みを浮かべる。

 「アンタを探してたのは、この街を救うためだ。だが、その前に――聞きたいことがある」

 斬牙は眉をひそめる。

 「俺の前世のことか?」


 影丸の目が細く光った。

 「やっぱり……思い出しかけてるな、侍」

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