第3話 封じられた記憶

血の雨が降った――

そんな悪夢のような夜の記憶が、斬牙の脳裏に微かに残っていた。


「お前……まさか、“覚醒”したのか?」


咲夜の問いに、斬牙は無言で頷いた。右手には見覚えのない漆黒の刀。鞘もないその刃は、斬られるたびにゾンビの肉を焼き払っていた。


「なんなんだよ、これ……」


斬牙は自分の手を見下ろしながら、胸の奥に疼く感覚を感じていた。これは初めてじゃない。もっと前に、どこかで――この感覚を知っている。


「前世の記憶だな。目覚めたか、サムライ。」


声の主は、突如現れた白髪の老人。山伏のような装束を纏い、額には護符が貼られている。


「誰だ、お前……!」


「儂は“加納”。お前の刀――“鬼哭の牙”の元の持ち主だ」


加納は静かに歩み寄ると、斬牙の額に手を当てた。


「見せてやろう。お前が何者かを」


――次の瞬間、斬牙の意識は闇に沈んだ。


◇ ◇ ◇


そこは戦国時代。荒れ果てた村を、一人の侍が駆け抜ける。


「斬り伏せろ!化け物どもを一匹残らずッ!」


刀を構えるその侍――それは、今の斬牙と瓜二つの顔をしていた。だが瞳は冷たく、何百、何千というゾンビを躊躇なく斬り捨てていく。


「“屍狩りの鬼”……それが、お前の前世だ」


斬牙は気づく。あの夜の悪夢も、この力も――偶然ではない。


「俺は……化け物を狩るために、生まれた……」


◇ ◇ ◇


現実に戻った斬牙は、ゆっくりと刀を構えた。


「来いよ、ゾンビども。今度は逃げねぇ」


加納が言う。


「目覚めた力の代償は、己の命だぞ。それでも行くか?」


斬牙は不敵に笑った。


「そんなもん、とうに捨てた。俺の刃は、もう止まらねぇ」


――地響きと共に、次の波が迫る。

ゾンビの大群が、町を飲み込もうとしていた。

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