第2話 血塗られた誓い
深夜――。
街を焼き尽くす炎の向こう、闇に包まれた廃ビルの屋上で、斬牙は刀を手に空を見上げていた。
「……まだ、人の姿をしていたあの時の方が、よほど恐ろしかった」
焦げた空気。腐った血の匂い。
ゾンビのうめき声は、もはや風景の一部にすぎない。
だが、あの時の“人間”たち――
銃を向けてきた警察。助けを求めても蹴り返した隣人。
すべてが、ゾンビよりも冷たく、残酷だった。
「……人は脅威を前にすると、こうも簡単に獣になるのか」
斬牙は、握った刀に力を込めた。
鞘に刻まれた「桜」の紋。
これは、前世の記憶にある、己の誇りの証――桜鬼流(おうきりゅう)剣術の家紋だ。
「俺は、過去に斬った者たちを覚えている。
だが今、この世界で斬るべきは、過去じゃない。
“今”を喰らう化け物共だ」
屋上に迫る気配。
腐肉の臭いとともに、壁を這い登るゾンビたちの姿が浮かび上がる。
一体、二体……いや十を超える。
斬牙は目を細めると、静かに刀を抜いた。
「――来い、腐れども。
今度は、俺がこの地に“誓い”を立てる番だ」
次の瞬間、斬牙の姿が煙のように消えた。
「斬鬼一閃――!」
刀閃が夜を裂き、ゾンビの首が宙を舞う。
一撃。
また一撃。
斬牙の剣は風となり、雷となり、屍を断つ。
だが、倒しても倒しても、ゾンビは湧いてくる。
その奥に――異様な気配があった。
「……こいつは……普通のゾンビじゃない」
巨大な体躯に、黒い甲冑を纏った異形のゾンビ。
その額には、血で描かれた奇妙な“梵字”。
「喰鬼(じきき)か……」
伝承にある、ゾンビの王種。
知性を持ち、屍を支配する存在。
斬牙は静かに刀を構える。
「ようやく、斬りごたえのある奴が来たな」
その夜、ビルの屋上にて斬牙と喰鬼が激突する。
血と刃が交錯する中――
斬牙は、かつての誓いを思い出していた。
「“人を守るために剣を抜く”――それが、俺の剣の意味だったな」
夜明けまでに、何度命を懸けることになるのか。
だが、斬牙の目に宿る光は――
もう、迷ってはいなかった
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