第13話 竜の瞳と継承の石
【お二人とも、遅い!】
特大の文字でそう書かれていた。僕はアルバに頼まれて、ゲイル様を呼びに来たのに随分をかかってしまった。せっかく用意したご飯が冷めてしまう。
すぐに食べてほしかったと、唇をへの字にするアルバを見て、慌てて謝罪をした。
「ごめん!」
「アルバ、そんなに大きな声出すなよ。耳が痛くなる。」
【わざと言っているんですよ!】
「はいはい。」
【撫でないでください!髪が乱れるー!】
そんな言葉をかけていても、抵抗する素振りはない。ゲイル様に撫でられて、機嫌が直ったアルバと共に、僕らは食卓を囲んだ。
生と死の狭間であるここは、食事をしてもしなくても生きてられる。
しかし、アルバは料理を作り、ゲイル様に食べてもらうことが、この上なく嬉しいと話していた。
ゲイル様もそんなアルバの姿を見て、微笑ましそうにしている。この二人は、お互い思いやり、大切にしているのだと感じた。
「そうだ、この後のことだが、オークス。」
「はい、何でしょう。」
ご飯を食べ終えた僕たちは、ゲイル様の部屋と呼び出された。大きな扉と、警護のために、その扉前に建つ鎧の剣士に怯えながら、室内へと足を踏み入れる。とんでもなく広い部屋であるものの、飾っているものは少ない。
何よりも、酒瓶が転がっていることもなく、部屋は綺麗な状態が保たれている。
アルバが用意してくれた椅子に座り、前を見た。傷の状態を見たいとして、こちらに視線を向ける。時より触れたりして、症状を確認する。
こんな時だが、真剣な表情を浮かべるゲイル様は、整った顔立ちをしていて、人の容姿に寄せてはいる者の、酒のつまみを食べるときや、話すために口を開くと鋭い牙が見えた。
やはり、この方も竜であると改めては確証を得る。
診断が終わったようで、手が離れていき、分かったことをゲイル様は淡々と事実を述べた。
「感覚は少しずつ戻るだろうが、後遺症は残る。そして、肝心な目のことだが、元に戻ることはない。」
「そうですか…。」
予想はしていたが、視界が半分のままで生きなければならないのか。瞬きをしても、隣に立っているアルバの姿は、首を動かさないと見ることができない。不便だが、慣れていこう。
すると、ゲイル様の近くに黒いもやが現れ、何をすると思えば、ためらいなく自身の手を入れる。その空間から取り出したのは、あの箱である。
蓋を開いて、取り出したのは鉱物の塊。ゲイル様の目の色と同じそれは、只ならぬものであると悟る。
「これは、一体。」
「私の力を加えられた特別な石だ。竜と戦うための力が宿る。これを目の代わりとすれば、視力は戻る。」
「えっ。」
竜と戦う。その言葉に引っかかるが、話は続く。
「ただし、成功するとは限らない。生き返るどころか、本当に死んでしまうかもしれない。それに…この石を受け取るということは、お前は私の役目を継ぐということになる。」
「役目とは、何のことでしょうか。」
鋭い目が二つ、こちらを見ている。今まで隠していた牙を覗かせ、カチッと歯を鳴らした。空中に浮く炎が消え、再び光が灯ったとき、目の前のゲイル様は姿を変えていた。
シエナとは異なる色をした、威厳と美しさを兼ねた竜である。吐く息で生み出された風により僕自身の前髪が乱れると、ゲイル様は僅かに目を細めている。そして、腹の中に抱えていた秘密を、解いていった。
『私は、友を、この手で殺したのだ。』
それは長い、長いお話。二つの竜から始まった戦いで起きた、友情と別れの悲しい物語。
聞き終わり、僕は空を仰いだ。
あまりにも壮大な話、そしてこれから起きる恐ろしい未来。信じたくはないけれど、ゲイル様が嘘をつくような御方でないことは分かっている。
この方が僕に託そうとしている役目は、あまりにも責任が重くのしかかるものであった。
この方はお前にしかできないことだと告げる。
そんな事言われたって、こんなガキ一人ができることは限られる。正直、期待外れにしかならないと思う。
でも、目先にある暗闇しかない空に光る、二つの星。太陽の陽が届かない冥界から見えるそれらは、この方の過去の罪と、今なお変わらない繋がりを象徴しているのだと思う。
そして、ここを統べるのがゲイル様だというのを考えれば、星を消さないでいること、それが答えなのだ。
「受け取らせてください。」
【オークス。】
『いいのか。』
「怖い、ですけど…、僕にできると信じてくれているなら、応えたい。何よりも…。」
シエナに、アーノルドに、シャノンに…、家族に誇れる自分でありたい。
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