第34話「生徒会長、僕の新しい日常」

生徒会役員選挙から数日後、夏希の男子校での日常は、大きく変化していた。彼は、全校生徒の投票によって「生徒会長」という大役を任されることになったのだ。朝礼での挨拶、生徒会室での会議、生徒からの要望への対応……。かつて女子校で「陰キャ」だった自分には想像もできなかった、多忙で責任ある日々が始まった。


(生徒会長……。僕が、この学園の『王』になるなんて。みんなが『好き』をくれたから、僕はここにいる。でも、この『王』の役割って、一体どんなものなんだろう?)


夏希は、生徒会長の腕章を眺めながら、その重みに戸惑いを隠せない。しかし、同時に、この新しい役割が、自分だけの「好き」を見つける旅の、新たなステージであることも感じていた。

生徒会室では、副会長の東雲が、夏希の隣で冷静に業務をこなしていた。彼の無表情な顔に、わずかな期待の色が浮かんでいる。


「夏希生徒会長。本日の議題は、学園祭の予算案と、新入生歓迎会の企画についてです。君の『未知なる資質』が、この学園に新たな秩序をもたらすことを期待しています」


東雲は、夏希の「王」としての資質を信じ、彼を支えようとしていた。彼の秩序の概念は、夏希の予測不能な魅力によって、さらに拡張されつつあった。

夏希の隣には、雀堂天音がタブレットを構え、生徒会長としての夏希の「幸福度最大化計画」を新たなフェーズへと移行させていた。


「お姉様、生徒会長としての幸福度最適化プランを立案しました。会議中の水分補給は15分に一度、休憩時には幸福感触率0.92の“無感情わたあめ”を推奨します。競合する生徒会役員の感情データもリアルタイムで分析し、最適なコミュニケーション戦略を提案します!」


天音の徹底した管理と、夏希への「好き」の感情は、生徒会長としての夏希を、データと愛で支えようとしていた。

放課後、生徒会室に十河飛雄が、わたあめを頬張りながら飛び込んできた。


「なっちゃん、生徒会長になったんだろ! すげーじゃん! オレ、なっちゃんの生徒会長、超好きだぞー! なっちゃんなら、絶対面白いルール作れるって!」


飛雄は、夏希の困惑をよそに、無邪気に笑う。彼の「好き」は、夏希の「結果」や「評価」ではなく、夏希の「存在」そのものを肯定してくれる、真っ直ぐな感情だった。飛雄の破天荒なアイデアは、生徒会活動に予期せぬカオスをもたらしそうだったが、その純粋さが夏希の心を軽くする。

そこに、御園絢人が静かに生徒会室に入ってきた。彼の完璧な笑顔は、夏希の多忙な日常に、一服の清涼剤のような存在だった。


「夏希くん、生徒会長、本当におめでとう。君の『王の資質』が、こうして形になったこと、僕も本当に嬉しいよ。何か困ったことがあれば、いつでも僕を頼ってほしい。君の隣で、どんな時でも支えるから」


絢人の言葉は、夏希の心に深く染み渡った。彼の「好き」は、夏希の存在を肯定し、彼が自分自身を「好き」になるための、確かな支えとなっていた。

校内では、生徒会長となった夏希の話題で持ちきりだった。彼の「王兼姫」としての魅力は、生徒会長という新たな役割を得て、さらに輝きを増していた。

演劇部の部室では、綾芽が優雅に微笑んでいた。


「ふふ、夏希くんの『人心掌握術』は、まさに舞台芸術ね。生徒会長という新たな舞台で、彼がどんな『王』を演じるのかしら。演劇部として、彼の新たな魅力を引き出してあげたいわ」


白玉皇一と愛園星歌は、生徒会長の座を夏希に奪われた悔しさを噛みしめながらも、夏希の持つ「未知なる

資質」に、新たな対抗意識を燃やしていた。


「くっ、あいつが生徒会長だと!? 許せん! だが、あの輝きは……次こそは俺が真の王の座を奪い取る!」

「わたくしの美しさこそが、この学園の『姫』、そして生徒会長に相応しいのよ! 夏希くんの輝きは、わたくしが霞ませてあげるわ!」


鴉月透は、生徒会長となった夏希を「神性による学園統治の顕現」と解釈し、教典に新たな章を書き加えていた。


「生徒会長……これは、夏希様の『聖なる統治』の始まり! 第二十一教義『王の顕現』として記録せねば……! 夏希様は、いかなる姿であろうと、我らの信仰の対象である!」


そして、保健室の先生・三葉薫は、生徒会長となった夏希を優しく見守っていた。彼女は、藤堂の事件を乗り越え、生徒会長という大役を射止めた夏希の成長を、心から喜んでいた。

(夏希ちゃん……あなたは、もう『守られる姫』じゃない。これからは、この学園を、そしてみんなを守る『王』になるのね。お姉さん、あなたの成長が楽しみだわ)

その夜、夏希は日記を開いた。

> “生徒会長。僕が、この大役を任されることになった。王の資質も、姫の資質も、そして総理の資質も、既存の枠には収まらない『未知なる資質』。それが、僕の『王』としての道なんだろうか。飛雄は僕の『全部』を好きだと言ってくれるし、絢人くんは僕の『好き』を隣で見守ってくれると言ってくれた。みんなが僕にくれる『好き』の形は、それぞれ違う。でも、その全部が、僕を少しずつ、僕自身を『好き』にさせてくれる。この男子校は、僕にとって、自分だけの『好き』を見つける場所なんだ。そして、僕はもう、モテ地獄の主役じゃなくて、自分だけの物語の主人公でいられる気がする。”


夏希の男子校での「モテ地獄」は、生徒会長という新たな舞台で、彼自身が「自分だけの物語の主人公」として、様々な「好き」の形の中で、自分自身の「好き」を見つけ、成長していく物語の始まりだった。そして、この物語は、まだ始まったばかりだ。

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