第33話「生徒会長、僕の『王』の道」

生徒会役員選挙の投票が終わり、校内は結果発表を待つ異様な静けさに包まれていた。体育館に全校生徒が集められ、ステージ上の巨大スクリーンには、各候補者の獲得票数と、最終的な役職が映し出されていく。人気さえあればおバカでもなれる、役員になれば自分がルールとなる、そして参加しないと内申点に響くという破天荒なルールは、生徒たちの間に独特の緊張感を生み出していた。

夏希は、飛雄と絢人の間に挟まれて座っていた。胸の鼓動が速くなる。自分が「守る王」になる決意を固めたばかりだというのに、まさかこんな形で「王の資質」を問われるとは。不安と、わずかな期待が入り混じった感情が、夏希の心を支配していた。

スクリーンに次々と候補者の名前と票数が映し出されていく。

白玉皇一と愛園星歌は、それぞれ自身のカリスマを最大限に発揮し、多くの票を獲得していた。しかし、その数字は、夏希の学年が獲得した票数には及ばない。二人は悔しさを露わにするが、夏希のユニークな選挙活動と、その圧倒的な支持に、自分たちのカリスマが及ばないことを認めざるを得ないようだった。

鴉月透は、夏希の「王の資質」を顕現させるべく、自身の「夏希教」の信徒を動員し、夏希への票獲得に貢献していた。彼の信徒たちが投じた票は膨大な量に上ったが、それでも夏希の獲得票数には及ばない。鴉月は、夏希の勝利を「神性による学園統治の顕現」と解釈し、狂喜乱舞していた。

雀堂天音のデータ分析と戦略は、完璧に機能していた。彼のタブレットには、夏希の獲得票数が圧倒的であることを示すグラフが輝いている。天音は、夏希の「生徒会長」獲得を確信し、満面の笑みを浮かべていた。

そして、ついに生徒会長の発表の時が来た。生徒会副会長・東雲が、厳粛な声で告げる。


「今年の生徒会長は――夏希だ!」


会場は、一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。夏希は、自分の名前が呼ばれたことに呆然とした。自分が「生徒会長」? 「王の資質」? 信じられない気持ちで、ステージを見上げる。

隣の十河飛雄は、夏希の勝利に飛び上がって喜んだ。彼は夏希に抱きつき、満面の笑みで叫ぶ。


「なっちゃん、すげー! やっぱりなっちゃんが一番だ! オレ、なっちゃんの生徒会長、超好きだぞー!」


飛雄の純粋な喜びが、夏希の心を温かく包み込む。彼の「好き」は、夏希の「結果」や「評価」ではなく、夏希の「存在」そのものを肯定してくれる、真っ直ぐな感情だった。

御園絢人は、夏希の隣に寄り添い、優しく抱きしめた。彼の完璧な笑顔は、夏希の喜びを分かち合うように輝いている。


「夏希くん、おめでとう。君の『好き』が、こんなにも多くの人の心を動かしたんだ。君は、僕の誇りだよ。これからも、君の隣で、ずっと見守っているから」


絢人の言葉は、夏希の心に深く染み渡った。飛雄の無邪気な「好き」が夏希の心を軽くし、絢人の包み込むような「好き」が夏希の存在を肯定する。様々な「好き」の形が、夏希の周りに溢れている。

ステージ上では、東雲が夏希の勝利を静かに見つめていた。彼の無表情な顔に、わずかな笑みが浮かぶ。


「夏希……君は、学園の秩序を、良い意味で破壊し、再構築する力を持っている。その『未知なる資質』は、我々の想像をはるかに超えていた。君こそが、この学園の真のリーダーだ。君の『王の資質』は、生徒会長に相応しい」


彼の秩序の概念は、夏希の予測不能な魅力によって、完全に拡張され、夏希を新たな「王」として、そして「生徒会長」として迎え入れようとしていた。

演劇部のブースでは、綾芽が優雅に拍手を送っていた。


「ふふ、夏希くんの『人心掌握術』は、まさに舞台芸術ね。彼の『姫』としての魅力が、生徒会長にまで繋がるとは……。次なる舞台は、彼自身が主役よ。演劇部として、君の新たな魅力を引き出してあげたいわ」


雀堂天音は、夏希の幸福度データを最終確認し、満面の笑みを浮かべていた。


「お姉様の幸福度が、過去最高値を大幅に更新! 『生徒会長』、最適化完了です! このデータは、今後の『お姉様幸福度最大化計画』に不可欠です!」


そして、保健室の先生・三葉薫は、ステージ上の夏希を優しく見守っていた。彼女は、藤堂の事件を乗り越え、生徒会長という大役を射止めた夏希の成長を、心から喜んでいた。


(夏希ちゃん……あなたは、もう『守られる姫』じゃない。これからは、この学園を、そしてみんなを守る『王』になるのね。お姉さん、あなたの成長が楽しみだわ)


その夜、夏希は日記を開いた。

“生徒会長。僕が、この大役を任されることになった。王の資質も、姫の資質も、そして総理の資質も、既存の枠には収まらない『未知なる資質』。それが、僕の『王』としての道なんだろうか。飛雄は僕の『全部』を好きだと言ってくれるし、絢人くんは僕の『好き』を隣で見守ってくれると言ってくれた。みんなが僕にくれる『好き』の形は、それぞれ違う。でも、その全部が、僕を少しずつ、僕自身を『好き』にさせてくれる。この男子校は、僕にとって、自分だけの『好き』を見つける場所なんだ。そして、僕はもう、モテ地獄の主役じゃなくて、自分だけの物語の主人公でいられる気がする。”



🗨️【生徒会選挙スレ/勝者考察】


385:匿名希望(票数は真理)

夏希、生徒会長爆誕──!!いやマジ何者なの???演説で泣きそうになった男子校ここにしかないだろ。


386:匿名(夏希教の端っこ)

あれは“支持”じゃなくて“信仰”なんよ。語った瞬間、全員「好き」を差し出してた。カリスマ系候補全滅、リアル王制崩壊。


387:匿名(破壊から始まる秩序)

東雲の表情、実は一番印象に残った。

「秩序を破壊し、再構築する」って、つまりこの男子校はもう夏希中心に再編されるってことでしょ。

令和の統治美学、ここに極まる。


388:匿名(票入れた勢)

正直、王とか姫とかってラベルに飽きてた。でも夏希の演説は、「自分でいられる場所」って語ってた。そこに票入れた。


389:匿名(星歌民)

うちの王子が崩れ落ちてたの泣けた。「あいつの美は意志だった」って言ってたのが全てじゃん。

夏希=美 × 意志。二次元でもない。神話でもない。現場にいた。


390:匿名(絢人民兼夏希推し)

絢人の抱きしめ方がもう“譲渡”だったよね。

“見守る好き”ってこういうことなんだろうな……


391:匿名(飛雄民兼わたあめ)

飛雄だけ「なっちゃんならすげー」って言ってて世界一優しい。

あれがこの選挙の根っこだった気がする。ぜんぶ好きで始まってるんだよなぁ……


392:匿名(選挙ウォッチャー)

得票数、天音による「幸福度推移と笑顔接触回数グラフ」完全一致してたらしい。

語りの可視化=票になるっての、普通に新時代きてる。


393:匿名(美術室の影を見た者)

藤堂の件から立ち上がったのが夏希だったの、重すぎるのに軽やかだった。

“語られる存在から、語る存在へ”って、本当にできるんだって思った。語りの奇跡。


394:匿名(裏サイト古参)

この男子校、モテ地獄とか言ってるけど、今となっては「語りの楽園」になりかけてる気がする。

それぞれの“好き”が、夏希の語りに触れようとする構造──正直、美しい。


395:匿名(まとめ厨)

結論:夏希=人心掌握術/語りの主語/未知なる資質

選挙結果:語られる者から、語る王へ

この物語、マジでまだ始まったばかり。次スレよろ。

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