第32話「選挙戦、僕の『王』の証明」
生徒会役員選挙の告知は、男子校を文字通りの「戦場」へと変えた。人気さえあればおバカでもなれる、役員になれば自分がルールとなる、そして参加しないと内申点に響くという破天荒なルールは、生徒たちの闘志に火をつけた。夏希は、自分が「守る王」になる決意を固めたばかりだというのに、まさかこんな形で
「王の資質」を問われるとは、と戸惑いを隠せない。
(僕の『王』になる決意が、まさかこんな選挙戦に繋がるなんて……! 誰かの『好き』を探してるだけなのに、いつの間にか学園のルールまで背負わされてる……!?)
選挙戦が始まると、校内は一気に熱狂的な選挙ムードに包まれた。各候補者は、それぞれの個性を爆発させ、熾烈な票獲得争いを繰り広げた。
白玉皇一は、校門前で毎日「俺こそが真の王!」と叫び、金色のマイクで演説を続けた。彼のファンクラブは、組織的に生徒たちに投票を呼びかけ、校内には彼の自撮りポスターが乱立した。
愛園星歌は、校内SNSを駆使し、「今日の愛らしさ」と題した選挙限定コーデを連日投稿。彼の美意識は、生徒だけでなく外部のメディアの注目も集め、SNSでの「いいね」の数がそのまま票に繋がるかのような勢いだった。
鴉月透は、夏希の「王の資質」を顕現させるべく、
「夏希様への聖なる一票」を訴える布教活動を開始。彼の「夏希教」の信徒たちは、夏希の過去の言動を引用した「夏希語録」を配布し、夏希への投票を「神性への献上」と説いた。
そんな中、夏希の選挙活動は、他の候補者とは一線を画していた。彼は、派手な演説やアピールは苦手だったが、生徒一人ひとりの話に耳を傾け、困っている生徒がいれば、持ち前の共感力で寄り添った。その真摯な姿勢が、生徒たちの心を掴んでいく。
雀堂天音は、夏希の「当選最適化プラン」を徹底的に実行した。彼のタブレットには、リアルタイムで各候補者の票の動向、生徒たちの感情データがグラフ化されている。「お姉様、現在の支持率は安定していますが、体育会系生徒へのアプローチが不足しています。十河先輩との共同演説を提案します!」天音は、夏希の「王」としての資質を最大限に引き出すため、データに基づいた的確な指示を出し続けた。
十河飛雄は、この壮大な選挙戦の目的を理解しきれないまま、しかし純粋な「好き」と破天荒なアイデアで夏希を応援した。彼は、校内を駆け回り、「なっちゃんに一票入れてくれ! なっちゃんなら、絶対すげー生徒会長になれる!」と叫び、生徒たちにわたあめを配り歩いた。彼の無邪気な行動は、選挙の雰囲気を和ませ、多くの笑顔を引き出し、予期せぬ形で夏希の票に繋がっていった。
御園絢人は、夏希の不安を見透かすように優しく寄り添い、彼の選挙活動を洗練された形でサポートした。彼は、自身の知名度やファン層を活用し、夏希の応援メッセージをSNSで発信。また、夏希の演説会では、彼の歌声で会場を盛り上げ、夏希の言葉がより多くの人々に届くよう演出した。
生徒会室では、東雲がこの選挙戦の運営を厳格に指揮していた。彼は、夏希のユニークな選挙活動と、それが生徒たちに与える影響を冷静に観察していた。
「夏希……君は、学園の秩序を、良い意味で破壊し、再構築する力を持っている。その『未知なる資質』が、この選挙でどう顕現するか……」
彼の秩序の概念は、夏希の予測不能な魅力によって、さらに拡張されつつあった。
そして、保健室の先生・三葉薫は、この選挙戦が夏希に与える影響を心配し、静かに見守っていた。彼女は、藤堂の事件を乗り越えた夏希の成長を喜びつつも、新たなプレッシャーが彼に重くのしかかることを危惧していた。
(夏希ちゃん……あなたは、もう『守られる姫』じゃない。でも、この選挙戦は、あなたを『守る王』にするための、大きな試練になるわね。お姉さん、陰ながら応援しているわよ)
選挙戦の最終日。夏希は、全校生徒を前に、自身の「王」としてのビジョンを語る最後の演説に臨んだ。マイクを握る手は震えていたが、彼の瞳には、確かな決意が宿っていた。
「僕は、みんなが『王』や『姫』と呼ぶような、完璧な存在じゃない。でも、僕は、みんなが自分らしくいられる、そんな学園を作りたい。僕が、僕であることで、誰かを笑顔にできるなら、それが僕の『王』としての役割だ。だから、僕に、みんなの『好き』を、一票として託してほしい!」
夏希の言葉は、飾らない、真っ直ぐなものだった。それは、他の候補者のような派手さはないが、生徒たちの心に深く響き渡った。演説が終わると、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
投票を終え、夏希は飛雄と絢人と共に校舎の屋上にいた。夕焼けが、三人の影を長く伸ばす。
「なっちゃん、お疲れ様! なっちゃんなら、絶対生徒会長になれるって!」
飛雄が満面の笑みで夏希の肩を叩く。絢人も、優しく夏希の髪を撫でた。
「夏希くん、最高の演説だったよ。君の『好き』が、きっとみんなに届いたはずだ」
夏希は、二人の言葉に、そっと自分の胸に手を当てた。僕はまだ、自分をまるごと好きだとは言えない。でも、この選挙戦を通じて、様々な「好き」の形に触れ、自分だけの「王」の姿を見つけることができた。その感覚は、夏希の心を温かく満たしていた。
(僕が、僕であること。それが、こんなにも誰かを笑顔にできるなら……。この選挙の結果がどうであれ、僕は、僕だけの物語の主人公でいられる気がする)
夏希の男子校での「モテ地獄」は、生徒会役員選挙という新たな舞台で、彼自身が「自分だけの物語の主人公」として、様々な「好き」の形の中で、自分自身の「好き」を見つけ、成長していく物語の始まりだった。そして、この物語は、まだ始まったばかりだ。
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