第31話「生徒会選挙、僕の『王』の舞台」

藤堂の事件が学園に大きな波紋を広げた後、夏希は「守られる姫」から「守る王」へと変わる決意を固め、生徒会入りを生徒会副会長・東雲に申し出ていた。そんな中、校内は新たな熱狂に包まれた。生徒会役員選挙の開幕だ。

校長室からの特別放送で、東雲が厳粛な面持ちで告げる。


「諸君。今年の生徒会役員選挙は、例年以上に重要となる。この選挙は、学力や体力、美しさだけでは測れない、真の『王の資質』を問うものだ。人気さえ獲得すれば、学業成績が振るわなくとも役員になれる。そして、役員となれば、学校内では君たち自身がルールとなる。さらに、この選挙に参加しない者は、内申点に大きく響くこととなる。さあ、未来の学園を担う者たちよ、その『王の資質』を示せ!」


夏希は、その告知に完全にフリーズした。自分が生徒会入りを志願したばかりだというのに、まさかこんな形で「王の資質」を問われるとは。しかも、人気さえあればおバカでもなれる、自分がルールとなる、参加しないと損をするという、あまりにも破天荒なルール。彼の「モテ地獄」は、もはや学園の枠を超え、政治の舞台へと変貌していた。

(僕の『王』になる決意が、まさかこんな選挙戦に繋がるなんて……! 誰かの『好き』を探してるだけなのに、いつの間にか学園のルールまで背負わされてる……!?)

戸惑いと、途方もないプレッシャーが、夏希の胸に重くのしかかる。しかし、同時に、この選挙戦が、自分だけの「王」になるための、新たな試練であることも感じていた。

告知と同時に、校内は一気に選挙ムードに包まれた。それは、甘いだけではない、熾烈な「王の資質」を巡る戦場の幕開けでもあった。

生徒会室では、東雲がこの選挙戦の運営計画を厳格に指揮していた。彼の隣には、雀堂天音がタブレットを構え、夏希の「当選最適化プラン」を高速で分析している。


「お姉様が生徒会役員となることは、お姉様の幸福度を最大化する上で極めて重要です。競合の動向、生徒たちの感情データ、全てを徹底的に分析し、最適な選挙戦略を立案します!」


演劇部の部室では、綾芽が優雅に微笑んでいた。


「ふふ、生徒会選挙は、愛と美、そして人心掌握の祭典よ。夏希くんの『姫』としての魅力が、どれだけ多くの票を引き寄せ、人々を魅了するか……楽しみだわ。演劇部として、夏希くんの『王の資質』を最大限に引き出す舞台演出を提案しましょうか?」


白玉皇一と愛園星歌は、この「王の資質」を巡る選挙戦を、自分たちのカリスマを国家レベルで証明する絶好の機会と捉え、早くも過激なアピール合戦を繰り広げ始めた。

白玉皇一は、校門前で金色のマイクを握りしめ、演説を始めた。


「俺こそが真の『王』であり、『姫』、そして未来の生徒会長だ! この選挙で、俺のカリスマが票を支配し、学園の心を掌握する! 我がファンよ、集え! 俺に一票を投じよ!」


彼のファンクラブの生徒たちが、プラカードを掲げ、熱狂的に応える。

愛園星歌は、校内SNSで自身の「選挙限定・総理候補コーデ」を公開し、連日「今日の愛らしさ」と「学園へのメッセージ」を更新していた。


「わたくしの美しさこそが、この学園の『姫』、そして未来の生徒会長に相応しいのよ! 生徒たちは、わたくしの輝きにひれ伏すでしょう! さあ、わたくしに清き一票を投じにいらっしゃい!」


彼の投稿には、瞬く間に「いいね」と「投票したい」というコメントが殺到し、外部のメディアも注目し始めた。

鴉月透は、生徒会選挙を「夏希様への信仰の顕現」と


「神性による学園統治の予兆」と解釈し、教典に新たな章を書き加えていた。

「生徒会選挙……これは、夏希様への愛の供物! 第十九教義『神性による人心掌握』、そして第二十教義『聖なる統治』として記録せねば……! 我が信徒よ、夏希様へ清き一票を投じ、その『王の資質』を顕現させるのだ!」


彼は、夏希への投票を「聖なる儀式」として捉え、信徒たちに「夏希様への愛」と「学園の未来」を説いていた。

そんな中、十河飛雄は、この壮大な目的を理解しきれないまま、いつも通りわたあめを頬張っていた。


「なっちゃん、選挙って、なんか偉い人になるんだろ? オレ、なっちゃんに一票入れる! 九九できないけど、なっちゃんへの『好き』は無限大だからな! なっちゃんなら、絶対すげー生徒会長になれるって!」


飛雄は、夏希の困惑をよそに、無邪気に笑う。彼の「好き」は、夏希の「結果」や「評価」ではなく、夏希の「存在」そのものを肯定してくれる、真っ直ぐな感情だった。その言葉は、夏希の心を少しだけ軽くする。飛雄は、選挙期間中、校内を駆け回り、生徒たちに「なっちゃんに一票入れてくれ!」と呼びかけ、予期せぬ形で選挙の盛り上がりに貢献しようとしていた。

御園絢人は、夏希の不安を見透かすように優しく寄り添っていた。彼は、自身の知名度やファン層を活用して夏希への票獲得を積極的にサポートすると約束した。


「夏希くん、心配いらないよ。君の『王の資質』は、票の数なんかで測れるものじゃない。でも、もし君が生徒会長になりたいと願うなら、僕が全力でサポートする。僕のファンにも声をかけて、会場を君の『好き』で満たしてあげるから。君の『人心掌握術』は、きっと僕の歌声よりも、人々の心に響くはずだ」


絢人の言葉は、夏希の心に深く染み渡った。飛雄の無邪気な「好き」が夏希の心を軽くし、絢人の包み込むような「好き」が夏希の存在を肯定する。様々な「好き」の形が、夏希の周りに溢れている。

そして、保健室の先生・三葉薫は、この選挙戦が夏希に与える影響を心配し、静かに見守っていた。彼女は、藤堂の事件を乗り越えた夏希の成長を喜びつつも、新たなプレッシャーが彼に重くのしかかることを危惧していた。


(夏希ちゃん……あなたは、もう『守られる姫』じゃない。でも、この選挙戦は、あなたを『守る王』にするための、大きな試練になるわね。お姉さん、陰ながら応援しているわよ)


その夜、夏希は日記を開いた。

“生徒会役員選挙。また、僕に『王』の役割が回ってきた。人気さえあればなれる、自分がルールになる、参加しないと損……なんだか変な選挙だ。でも、飛雄や絢人くん、そしてみんなが僕にくれる『好き』の形は、それぞれ違う。この『モテ地獄』の中で、僕が本当に『好き』って思える場所を、見つけられるのかな。僕が、僕であること。それが、この男子校で、そして『王の資質』として、どういう意味を持つんだろう。

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