第28話「保健室の影、先生の秘密が揺らぐ時」
「保健室の影、先生の秘密が揺らぐ時」
「ミスターバレンタイン」の称号を獲得し、学園の新たな「総理の資質」を持つ者として注目を集める夏希。彼の日常は相変わらずの「モテ地獄」に彩られていたが、その輝きの裏で、新任教師・藤堂悠の秘密の執着が、静かに、しかし確実に深まっていた。藤堂は、夏希の「美」を独占しようと、誰にもバレていないと信じながら、夏希のフルヌードの油絵10枚を含む裸体アートを制作し続けていた。
そんなある日の放課後、夏希は保健室に呼び出された。そこにいたのは、いつも優雅で、どこか掴みどころのないオネエ言葉を使う保健室の先生、**三葉薫(みつば かおる)**だった。
「あら、夏希ちゃん。最近、なんだかお顔が曇りがちじゃない? お姉さん、心配になっちゃったわ」
三葉先生は、夏希の顔を覗き込むように優しく微笑んだ。その視線は、夏希の心の奥底を見透かすようだった。夏希は、最近感じていた「見られすぎている」という漠然とした不快感や、藤堂先生の言葉の裏にある違和感を、三葉先生になら話せるかもしれない、と感じた。
「先生……僕、最近、なんだか変なんです。みんなが僕を『王』とか『姫』とか『総理』とか、色々な目で見てくるのは慣れたんですけど……藤堂先生の視線だけ、なんだか違う気がして……」
夏希は、藤堂先生がSNSのパンケーキの投稿を褒めたことや、「男の娘」という言葉を使ったこと、そして「美術史に刻むべき美」としてモデルにならないかと提案されたことを、戸惑いながら打ち明けた。三葉先生は、夏希の言葉を一つ一つ丁寧に聞きながら、その表情をわずかに曇らせた。
「あらあら、それは大変ね。藤堂先生の視線……ふふ、お姉さん、ちょっと心当たりがあるかもしれないわ」
三葉先生は、夏希の言葉から、藤堂の異常な執着と、その視線に潜む「良からぬ思想」の片鱗を察知した。彼女は、夏希のメンタルケアを装いながら、水面下で藤堂の秘密を探り始めることを決意した。
三葉先生の動きと時を同じくして、夏希の周囲の男たちも、藤堂の秘密に徐々に気づき始めていた。
雀堂天音は、夏希の幸福度データに、藤堂との接触時に発生する「解析不能な感情の揺らぎ」が、以前よりも顕著になっていることを記録していた。彼の分析は、藤堂の行動が夏希に与える影響の深さを、より具体的に捉え始めていた。
「お姉様のストレスレベルが、藤堂先生との接触時に異常値を示しています。これは、単なる教師と生徒の関係性では説明できません。藤堂先生の行動パターンに、異常な執着の兆候を検出しました」
御園絢人は、夏希への恋心から、藤堂の夏希への視線やアプローチに静かな警戒心を抱いていた。彼は、夏希の様子がいつもと違うことに気づき、藤堂の動向を独自に探り始めた。ある日、藤堂の部屋の窓から、キャンバスの影がちらりと見えたような気がして、絢人の完璧な笑顔の裏に、探るような視線が向けられた。
生徒会副会長・東雲は、学園の秩序を乱す可能性のある藤堂の不審な行動に気づき、生徒会として監視を強化していた。特に、藤堂が夏希に異常なほど接近しているという報告を受け、彼の存在が学園の安定を脅かす可能性を危惧し始めていた。
白玉皇一と愛園星歌は、藤堂が夏希に異常なほど関心を示していることに、自分たちのカリスマが霞むのではないかと焦りを感じていた。彼らは、藤堂の行動を「夏希への不健全なアプローチ」と捉え、それぞれの方法で牽制しようと画策し始めた。
鴉月透は、藤堂の夏希への言動を「神性への新たなアプローチ」と解釈しつつも、その執着の度合いが「信仰」の範疇を超えていることに、わずかな違和感を覚え始めていた。彼の教典には、まだ記録されていない「未知の領域」が広がっていることを感じていた。
十河飛雄は、夏希の元気がないことに気づき、いつものようにわたあめを頬張りながら、夏希の隣に寄り添った。
「なっちゃん、なんか元気ねーな? 藤堂先生、なんか変なこと言ったのか? オレ、なっちゃんの全部、好きだぞ! 変なやつから守ってやるからな!」
飛雄の無邪気な言葉は、夏希の心を軽くするが、同時に、彼の周りに潜む危険を無自覚に示唆していた。
一方、藤堂悠本人は、自身の秘密が周囲に徐々に露見し始めていることに全く気づいていなかった。彼は、夏希が保健室に呼び出されたことを知っても、三葉先生が夏希のメンタルケアをしていることを「教師としての当然の配慮」としか捉えていなかった。彼の頭の中は、次の夏希の裸体アートの構想でいっぱいだった。
(夏希くん……君の美は、僕だけのものだ。誰にもバレていないと信じている、僕だけの秘密の感情……。
この男子校で、君の全てを、僕が独占したい)
藤堂は、完璧な笑顔を保ちながら、夏希への一方的で秘められた欲望を胸に、彼の「奴隷姫」を独占する機会を伺っていた。しかし、彼の秘密の行為は、すでに周囲の警戒の目を引き始めており、この男子校の「モテ地獄」に、新たな、そして決定的な波乱をもたらすことを予感させていた。
その夜、夏希は日記を開いた。
“三葉先生に話を聞いてもらって、少しだけ心が軽くなった。でも、藤堂先生の視線が、やっぱり気になる。みんなが僕を『好き』って言ってくれるのは嬉しい。でも、藤堂先生の『好き』は、なんだか違う気がする。僕の知らないところで、何かが動いているような……。この男子校で、僕は本当に『僕』でいられるのかな。”
夏希の男子校での「モテ地獄」は、教師の秘密という新たな闇を抱え、さらに複雑な様相を呈し始めていた。彼は、自分だけの「好き」を見つけ、自己肯定へと繋げていくため、この見えない戦いに立ち向かうことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます