第18話「先生の秘密、僕だけの『奴隷姫』」
男子校に赴任して数ヶ月。藤堂悠は、今日も完璧な笑顔で教壇に立っていた。生徒たちの間では「大学生の男の娘がタイプらしい」という噂がまことしやかに囁かれているが、彼にとって、それはどうでもいいことだった。彼の視線の先には、いつも一人の生徒がいる。夏希。彼がこの学校を選んだ、唯一無二の理由だ。
藤堂の脳裏には、あの日の光景が鮮明に焼き付いている。数ヶ月前、偶然ネットで見かけた、男子校の文化祭の歌劇の動画。「亡国の奴隷姫」。ボロボロの布切れ一枚を纏い、ステージに立つ夏希の姿は、藤堂の心を鷲掴みにした。その外見は「可愛い系美男子」でありながら、内面から溢れ出る気高さ、悲しみ、そして再興への強い意志。それは、藤堂がこれまで追い求めてきた「男の娘」という概念を遥かに超えた、「神性」そのものだった。
(あの瞳……あの声……。ボロ布一枚で、あれほどの輝きを放つ存在が、この世にいたなんて……)
藤堂は、その動画を何度も繰り返し見た。暗がりの部屋で、画面の中の夏希に、熱い視線を送り続ける。彼の指先は、画面の中の夏希の輪郭をなぞり、その度に、抑えきれない衝動が全身を駆け巡った。それは、誰にも知られることのない、藤堂だけの秘密の儀式だった。
「君の気高さは、僕だけのものだ……」
その衝動に突き動かされるように、藤堂は教師としてこの男子校への赴任を決めた。夏希の隣にいるためなら、教師という立場も厭わない。彼の「奴隷姫」を、一番近くで見守るために。
学校での藤堂は、夏希のSNSを密かにチェックしていた。顔出しはしているものの、年齢は非公開。時折、元女子としての感性や、無意識の仕草が垣間見えるような投稿に、藤堂の胸は高鳴る。特に、カフェのパンケーキの投稿を見た時は、思わず笑みがこぼれた。
ある日、夏希が教室でスマホをいじっていると、藤堂はふらりと夏希の席に近づいた。
「夏希くん、君のSNS、いつも楽しく見させてもらっているよ」
夏希は心臓が跳ね上がったようだった。教師が自分のSNSを知っていることに、不安と困惑を滲ませている。藤堂は、その反応を面白く感じながら、さらに言葉を続けた。
「特に、あのカフェのパンケーキの投稿、すごく可愛かったね。ああいう、ちょっと女の子っぽいものに惹かれる感性、とても素敵だと思うよ。君のような『男の娘』は、本当に稀有な存在だ」
藤堂の言葉に、夏希は完全にフリーズした。「男の娘」? なぜそんなことを言われるのか。自分が元女子であることは、男子校では誰にも明かしていないはずだ。教師は、夏希のSNSの投稿内容から、夏希を「大学生の男の娘」だと誤解しているのだ。藤堂は、夏希の困惑した表情を見て、内心で密かに笑みを深めた。この誤解が、二人の関係をより複雑に、そして面白くしてくれるだろうと。
(夏希くん……君は、僕だけの『奴隷姫』だ。この感情が、誰にもバレていないと信じている。君の全てを、僕が独占したい)
藤堂は、夏希への一方的で秘められた欲望を胸に、完璧な笑顔を保ち続けた。彼の秘密の感情が、この男子校の「モテ地獄」に、新たな波紋を広げようとしていた。
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