第15話 喝采と雑音、僕の『姫』の評価
「姫の資質判定歌劇テスト」は、大成功のうちに幕を閉じた。夏希が演じた「亡国の奴隷姫」は、その異色の役柄と、ボロボロの布切れ一枚という衣装から滲み出る気高さで、観客の心を鷲掴みにした。会場は熱狂の渦となり、来客人数も予想をはるかに上回った。
舞台裏に戻った夏希は、安堵と達成感で胸がいっぱいだった。飛雄が駆け寄ってきて、夏希の肩を抱きしめた。
「なっちゃん、すげー! 超かっこよかった! オレ、泣いちゃったよ!」
絢人も、夏希の隣に立ち、優しく微笑んだ。
「夏希くん、最高の舞台だったよ。君の『好き』が、会場全体を包み込んでいた。君は、本当に素晴らしい『姫』だ」
夏希は、二人の言葉に、そっと自分の胸に手を当てた。僕はまだ、自分をまるごと好きだとは言えない。でもあの頃、誰にも見られないように隠れていた“僕”より、今の僕を──少しだけ愛してもいい気がする。
翌日、校内は歌劇の話題で持ちきりだった。生徒たちは夏希の演技を絶賛し、ネット上でも「奴隷姫」の話題が飛び交っていた。夏希は、自分の舞台がこれほど反響を呼んだことに驚きと喜びを感じていた。
しかし、そんな中、夏希は偶然、ネットの掲示板で自分の舞台に対する批判的なコメントを目にしてしまう。
* 「“姫の資質”とか言っておきながら、男子にボロ布纏わせる演出ってどうなの? 感動云々以前に、もう少し衣装への配慮って必要じゃない?やりすぎだと思う。」
* 「演技はまあ良かったけど、話題性狙いすぎじゃね? “奴隷姫”って名前だけでセンセーショナル感強すぎて、なんか興ざめした。」
* 「夏希くんってずっと『モテ枠』って言われてるけど、舞台終わったらまた“モテ地獄”とか言っておしまいでしょ? この演目が“何か変える”って本気で思ってる人、いるの?」
称賛の言葉に混じる、辛辣な批判や懐疑的な意見。夏希の胸に、ズキリと痛みが走る。舞台で感じた自己肯定感が、一瞬にして揺らいだ。
(やっぱり、僕が『姫』を演じるなんて、無理だったのかな……。ただの話題作りって思われてる……?)
夏希が落ち込んでいると、飛雄がいつものようにわたあめを頬張りながら現れた。
「なっちゃん、なんか元気ねーな? テストの結果、まだ出てないけど、オレはなっちゃんが一番すげーって思ってるからな!」
飛雄は、夏希の顔を覗き込む。夏希は、ネットのコメントを見たことを話そうか迷ったが、飛雄の無邪気な笑顔を見ていると、そんなことを話すのが馬鹿らしく思えた。飛雄は、夏希の「結果」や「評価」ではなく、夏希の「存在」そのものを肯定してくれる。その真っ直ぐな「好き」が、夏希の心を軽くする。
そこに、絢人が静かに夏希の隣に座った。彼は夏希の表情の変化に気づいているようだった。
「夏希くん、ネットのコメント、見たんだね」
絢人の言葉に、夏希はハッとする。絢人は、夏希の手をそっと握った。
「色々な意見があるのは当然だよ。でも、君が舞台で表現した『好き』は、確かに多くの人の心を動かした。僕も、その一人だ。君が自分自身を『好き』になれるように、僕も隣で支えたい。君の『好き』を、僕に見せてほしい」
絢人の言葉は、夏希の心に深く染み渡った。飛雄の無邪気な「好き」が夏希の心を軽くし、絢人の包み込むような「好き」が夏希の存在を肯定する。様々な「好き」の形が、夏希の周りに溢れている。
その夜、夏希は日記を開いた。
“ネットのコメントは、僕の心を揺らした。でも、飛雄は僕の『全部』を好きだと言ってくれるし、絢人くんは僕の『好き』を隣で見守ってくれると言ってくれた。僕が『姫』を演じたことは、誰かの評価のためじゃなかった。僕が、僕自身を『好き』になるための、大切な一歩だったんだ。批判も、喝采も、全部僕の物語の一部。この男子校で、僕はもっと、僕だけの『好き』を見つけたい。”舞台は終わった。でも、僕が“僕を好きになる演目”は──まだ続いてる気がする。
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