第12話「王の資質判定、僕の『王』はどこへ?」

「王の資質判定テスト」から数日後、校内は結果発表を待つ異様な静けさに包まれていた。体育館は、光の粒も音も、すべてが息をひそめていた。 一人ひとりの名前が、巨大スクリーンに映るたび──誰かが笑い、誰かが震えた。 視線が“順位”という言葉に鋭くなり、言葉より先に空気が尖っていく。ステージ上の巨大スクリーンに、一人ひとりの名前と、三つの資質(知力、体力、精神性)の評価、そして総合順位が映し出されていく。この結果が、学内カーストと進路を左右するという重圧が、生徒たちの間に張り詰めていた。

夏希は、飛雄と絢人の間に挟まれて座っていた。胸の鼓動が速くなる。かつて女子校で「陰キャ」だった自分は、こんな公の場で評価されることに慣れていない。不安と、わずかな期待が入り混じった感情が、夏希の心を支配していた。

スクリーンに次々と名前が映し出されていく。

東雲の名前が上位に表示されると、会場からは納得のざわめきが起こった。彼は知力と精神性で高評価を得ており、まさに「秩序の王」にふさわしい結果だった。東雲は、夏希の方向を一瞥し、静かに頷いた。彼の秩序の概念は、夏希の存在によって、さらに多角的な視点を取り入れつつあった。

綾芽は、知力と精神性で高得点を叩き出し、特に「感情翻訳演習」では圧倒的な表現力を見せつけた。彼の結果は、彼が「美の王」としても君臨できることを示していた。綾芽は、夏希に優雅な笑みを向けた。彼の瞳は、夏希の新たな表現方法に、深い興味を抱いているようだった。

白玉皇一と愛園星歌は、それぞれ得意分野で高評価を得たものの、総合順位では上位に食い込めず、悔しそうに唇を噛みしめていた。特に、夏希のユニークな解答やパフォーマンスが話題になっていたため、二人のナルシストは、夏希への対抗心をさらに燃やしていた。

鴉月透は、知力と精神性で意外な高評価を得ていた。彼の「夏希教」の教典が、彼の思考力を高めていたのかもしれない。彼は、夏希の結果を待つ間も、ノートに何かを書き加えていた。

雀堂天音は、全ての項目で完璧な成績を収め、学年トップクラスの順位に輝いた。彼の「お姉様幸福度最大化計画」は、夏希を「王」として最高の結果に導くという目標を着実に達成しつつあった。

そして、ついに夏希の名前がスクリーンに映し出された。

夏希という名前が、画面に浮かぶ。その下に、一言──『圏外』。視線が集まる。空気が止まる。誰かが息を吸った音さえ、やけに響いた。

会場がざわめいた。知力、体力、精神性、どの項目も突出した高得点ではない。しかし、その評価コメントには、異例の言葉が並んでいた。

知力:枠に収まらない発想力。未熟ではあるが、揺らぎの中に共感がある。

体力:平均以下だが、心で動く者ほど、誰かを背負えると評価。

精神性:輪郭はぼやけているが、他者の「好き」を映して、自分という形を浮かび上がらせる力。

して、総合評価にはこう記されていた。

「既存の『王』の枠には収まらない、未知なる『資質』を持つ存在。学園の秩序を再構築する可能性を秘める」

夏希は、自分の結果に呆然とした。「圏外」。しかし、その評価コメントは、彼が「王」や「姫」といった既存の枠に収まらない、自分だけの「夏希」であることを示唆していた。それは、不安であると同時に、どこか心地よい響きを持っていた。

隣の飛雄は、夏希の結果を見て、満面の笑みを浮かべた。

「なっちゃん……すげーじゃん! オレ、“未知なる資質”って好きだな。だって、それって誰の真似でもないってことじゃん?オレ、なっちゃんって、ずっとオレだけの発見だとそう、思ってるからさ……!」


飛雄は、夏希の肩を力強く叩いた。彼の「好き」は、夏希の「結果」ではなく、夏希の「存在」そのものを肯定してくれる、真っ直ぐな感情だった。

絢人は、夏希の隣で静かに微笑んだ。彼の完璧な笑顔は、夏希の不安を見透かすように優しい。


「夏希くん、やっぱり君は素晴らしいね。テストの点数なんかで測れるものじゃない。君の『好き』は、これからもっと輝くはずだよ。僕が、その隣で、ずっと見守っているから君が“圏外”って言われるのなら、それは地図にない星みたいなものだね。僕はずっと隣で見てる。その星が誰かの道しるべになる瞬間を」


絢人の言葉は、夏希の心に深く染み渡った。飛雄の無邪気な「好き」が夏希の心を軽くし、絢人の包み込むような「好き」が夏希の存在を肯定する。様々な「好き」の形が、夏希の周りに溢れている。

その夜、夏希は日記を開いた。

“王の資質判定テスト。僕は『圏外』だった。でも、それは僕が『王』になれないってことじゃなくて、僕が『僕』であることの証明なのかもしれない。みんなが僕にくれる『好き』の形は、それぞれ違う。でも、その全部が、僕を少しずつ、僕自身を『好き』にさせてくれる。この男子校は、僕にとって、自分だけの『好き』を見つける場所なんだ。”


夏希の男子校での「モテ地獄」は、新たな局面を迎えていた。それは、単にモテるだけでなく、彼自身が「自分だけの物語の主人公」として、様々な「好き」の形の中で、自分自身の「好き」を見つけ、成長していく物語の始まりだった。

そして、次なる試練、「姫の資質を測る歌劇演目公演」の告知で次は、“姫の資質”が問われるって言われる。でも僕は、“誰かの枠”じゃなくて、また僕らしくステージに立てたらいいな。

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