「王の資質、テストで問われる僕」
文化祭の賑わいが静まり、日常が戻ってきた男子校。だが、その日常はもう少しだけ違って見える。あの日、自分が“誰かの役割”じゃなく“自分の好き”で輝いたように──もしこのテストも、そうなれたなら。
この放送でまさかあんなことになるとは……。
校内放送が異例の発表を告げた。それは、全学年を対象とした「王の資質判定テスト」の実施だった。学力テストと体力テストを組み合わせたこの一斉調査は、学内カーストを確定させ、さらには将来の進路まで左右するという、前代未聞の重要イベントだという。
「このテストが決めるのは、ただの点数ではない。君たちが“何者”として、この学園に刻まれるか──その物語の序章だ。王となるか、誰かの影となるか……あるいは、その枠すら越えてしまう者か……。」
校長の声が響き渡る中、夏希は思わず息を呑んだ。また「役割」を押し付けられるのか。しかも、今度は学園全体、そして未来まで関わるという。かつて女子校で「陰キャ」だった自分は、こんなテストで一体どうなるのか。不安と戸惑いが、夏希の胸を締め付けた。
教室は、テストの話題で持ちきりだった。生徒たちは、それぞれの思惑を胸に、テストへの準備を始める。
生徒会室では、東雲がテストの実施要項を厳しくチェックしていた。
「このテストは、学園の秩序を再構築する絶好の機会だ。夏希、君には、このテストで真の『王の資質』を示すことを期待する」
彼の視線は、夏希の持つ予測不能な力を、このテストで「秩序」へと組み込もうとしているようだった。
演劇部の部室では、綾芽が優雅に微笑んでいた。
「あら、面白いことになったわね。テストで『王の資質』? ふふ、それなら、夏希くんの『美』と『意志』が試される絶好の舞台じゃないかしら」
彼は、夏希がこのテストでどのような「パフォーマンス」を見せるのか、興味津々といった様子だった。
白玉皇一は、テストの告知ポスターの前で、自撮りをしながら宣言した。
「俺のカリスマは、テストで測れるものではないが、あえて受けてやろう。真の王は、どんな舞台でも輝くのだからな!」
愛園星歌は、テスト対策の参考書を眺めながら、悔しそうに呟いた。
「わたくしの美しさは、テストの点数では測れないわ。でも、夏希くんより低い点数なんて、ありえない……!」
二人のナルシストは、このテストを新たな「自己アピール」の場と捉え、夏希への対抗心を燃やしていた。
鴉月透は、テストの告知を「神性への試練」と解釈し、新たな教義を書き加えていた。
「学力と体力……これは、夏希様の『知』と『体』の顕現を測る儀式。教典に新たな章を加えねば……!」
彼の信仰は、夏希のあらゆる行動を「神話」として記録しようとしていた。
雀堂天音は、夏希の過去の成績データと身体能力データを高速で分析し始めた。
「お姉様の『王の資質』を最大化するための最適化プランを立案します! 過去のデータから、弱点と強みを洗い出し、効率的な学習・トレーニングスケジュールを構築します!」
彼のマネージャーとしての使命感は、夏希を「王」として最高の結果に導くことへと向かっていた。
そんな中、十河飛雄は、テストの告知にも関わらず、いつも通りわたあめを頬張っていた。
「なっちゃんって、難しいことも笑えるくらいのツッコミしてくれるじゃん。オレ、テストもよくわかんないけど……なっちゃんが隣なら、オレもちょっと頑張れるかも! オレ、九九できないけど、体力テストなら、なんか面白そうじゃん!」
飛雄は、夏希の不安をよそに、無邪気に笑う。その言葉に、夏希は少しだけ心が軽くなる。飛雄の「好き」は、夏希の「ツッコミ」を肯定し、彼の存在を丸ごと受け入れてくれる。それは、テストのプレッシャーから夏希を解放してくれる、温かい光のように思えた。
絢人は、夏希の隣にそっと寄り添った。彼の完璧な笑顔は、夏希の不安を見透かすように優しい。
「夏希くん、心配いらないよ。君の資質は、誰かに王と呼ばれるためのものじゃない。君が“誰かを動かす言葉”を持ってること──僕は、そこにずっと惹かれてるよ。でも、もし君がこのテストで輝きたいと願うなら、僕が全力でサポートする。君の隣で、どんな結果でも受け止めるからさ。」
絢人の言葉は、夏希の心に深く染み渡った。飛雄の無邪気な「好き」が夏希の心を軽くし、絢人の包み込むような「好き」が夏希の存在を肯定する。様々な「好き」の形が、夏希の周りに溢れている。
その夜、夏希は日記を開いた。
““このテストが、僕を『誰かが望む王』にしようとしてくるのが怖かった。でも……飛雄は僕をただ笑って、絢人くんは僕の隣を空けてくれる。僕の“好き”は、そんな隙間で芽を出すものなのかもしれない。”でも、飛雄は僕のバカを笑ってくれるし、絢人くんは僕の隣にいてくれるって言ってくれる。僕が、僕。それが、このテストでどう評価されるのかは分からない。でも、僕が『好き』って思える場所を、このテストで見つけられたらいいな。”
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夏希の男子校での「モテ地獄」は、新たな試練を迎えていた。それは、彼自身が「自分だけの物語の主人公」として、様々な「好き」の形の中で、自分自身の「好き」を見つけ、成長していく物語の始まりだった。
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