第8話「文化祭のその先へ、僕の『好き』が向かう場所」
「文化祭のその先へ、僕の『好き』が向かう場所」
文化祭が終わり、男子校はいつもの日常を取り戻していた。しかし、夏希にとって、その日常は以前とは少し違って見えた。校長先生わたあめタワーの成功は、彼の中に確かな自信と、自分自身が「面白い」と感じることを形にする喜びを与えていた。
朝のホームルーム。飛雄は、相変わらず教科書を逆さに持っていたが、夏希が正しい向きに戻してやると、嬉しそうに笑った。
「なっちゃん、やっぱなっちゃんのツッコミがないと、なんか物足りねーんだよな!」
その言葉に、夏希は自然と笑みがこぼれる。飛雄の「好き」は、夏希の「ツッコミ」という、彼自身の存在を肯定してくれる、温かく、そして心地よいものだった。それは、夏希が自分自身を「好き」になるための、小さな、しかし確かな一歩のように感じられた。
放課後、夏希が教室で課題をしていると、絢人が隣にそっと座った。彼の完璧な笑顔は、文化祭の喧騒が去った静かな教室でも、一際輝いている。
「夏希くん、文化祭、本当にお疲れ様。君の企画は、僕にとっても最高の舞台だったよ」
絢人は、そう言って夏希の髪を優しく撫でた。その指先が触れるたび、夏希の胸は甘く波打つ。絢人の「好き」は、夏希の存在そのものを深く肯定し、彼を特別な存在として扱ってくれる。それは、夏希が「愛される存在」であることを強く意識させられるものだった。
「君が、自分を好きになろうとするたびに、僕の心も明るくなる。だから、その光が消えそうな日も、僕が隣で照らすから……そして、君の『好き』がこうして形になるのを見ることができて…………。本当に幸せだ。」
絢人の言葉は、夏希の心に深く染み渡った。飛雄の無邪気な「好き」が夏希の心を軽くし、絢人の包み込むような「好き」が夏希の存在を肯定する。様々な「好き」の形が、夏希の周りに溢れている。
校内では、文化祭の成功と夏希の活躍が、生徒たちの間で新たな話題となっていた。
生徒会室では、東雲が文化祭の最終報告書を閉じ、静かに呟いた。
「夏希……君は、この学園の秩序を、良い意味で破壊し、再構築する力を持っている。その可能性を、見誤っていたようだ。次なる生徒会活動に、君の力を借りたい」
彼の秩序の概念は、夏希の予測不能な魅力によって、さらに拡張され、新たな局面を迎えようとしていた。
演劇部のブースでは、綾芽が優雅に微笑んでいた。
「夏希くんの舞台は、いつも予想外の展開を見せてくれるわね。あのわたあめタワー……まさに、美とカオスの融合よ。次なる舞台は、彼自身が主役になるのかしら。演劇部で、君の新たな魅力を引き出してあげたいわ」
彼の瞳は、夏希の新たな表現方法に、深い興味を抱いているようだった。
白玉皇一は、自分のブースの客足がわたあめタワーに奪われた悔しさを噛みしめながらも、夏希の存在を認めざるを得ない状況に直面していた。
「くっ、あのわたあめが、俺のカリスマを霞ませるだと!? 許さん!だが……あの輝きは、確かに王の資質……!次こそは、俺が真の王の座を奪い取る!」
愛園星歌は、悔しそうに唇を噛みしめながらも、わたあめタワーの「映え」を冷静に分析していた。
「あの奇抜さ……わたくしの美学とは違うけれど、確かに目を引くわね。夏希くん、恐ろしい子……!次こそは、わたくしが真の姫の輝きを見せてあげるわ」
鴉月透は、わたあめタワーの残骸の前で、恍惚とした表情でノートに書き込んでいた。
「校長先生の顔から生える甘美なる神性……これは、第十四教義『甘露の顕現』として記録せねば……!夏希様は、常に我々の想像を超越する……。新たな神話の章が、今、開かれようとしている……」
彼の信仰は、夏希の創造性によって、さらに深淵な領域へと足を踏み入れていた。
雀堂天音は、夏希の幸福度データを最終確認していた。
「お姉様の幸福度が、過去最高値を更新! 飛雄先輩との共同作業が、ポジティブな感情を増幅させています!御園先輩との交流も、感情の複雑性を高め、より人間的な成長を促しています!このデータは、今後の『お姉様幸福度最大化計画』に不可欠です!」
彼のマネージャーとしての使命感は、夏希の幸福を追求することへと、より明確にシフトしていた。
文化祭の賑わいが去り、静かになった教室で、夏希は一人、窓の外の夕焼けを眺めていた。飛雄の温かい手の感触と、絢人の優しい言葉が、まだ心に残っている。
夏希の胸に触れた手が、小さく震えていた。
「全部じゃなくていい。でも、今の僕を──この笑える僕を、少しだけ信じてもいい気がする」
その感覚は、愛というよりもようやく自分と歩き出せる予感だった。
(僕が、僕であること。それが、こんなにも誰かを笑顔にできるなら……)
文化祭は終わった。しかし、夏希の「モテ地獄」は、新たな局面を迎えていた。それは、単にモテるだけでなく、彼自身が「自分だけの物語の主人公」として、様々な「好き」の形の中で、自分自身の「好き」を見つけ、成長していく物語の始まりだった。
この文化祭が終わったあとも、この「好き」が踊り続けてくれるならそして僕は、誰かの理想になるより、僕自身を語れる存在でいたい。
好き」の形はまだ揺れてるけれど──僕の声で、僕のままで、ちゃんと続けてみたい。
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