第3話
「あ、おはよう!!」
目を開ければ、見知った天井。
「大丈夫??体とか、痛くない??」
目線をやれば見慣れた顔。
「希美……??」
「何よ、その目!!可愛い幼馴染がわざわざ来てあげたって言うのに!!」
茶色のショートカットが揺れる。
「帰って来てから家族の次に会いに来てあげたのよ??」
彼女は真庭希美。俺の1つ年上の幼馴染だ。今は上京して大学に通っている。
「そっか、夏休みか」
「大学生って夏休み長いの!!だからちゃーんと秀に会いにきたのに……」
「俺、昨日どうしてたんだっけ」
「知らないの??」
はぁ、とため息を吐く彼女。
「真夜中に弓持って出て行ったと思ったら朝方には玄関で倒れてたっておばさん言ってたよ??……何してたの??」
怪訝そうな顔。
そうか、あれは夢じゃなかったのか。
「こぐ……」
「こぐ??」
「いや、何でもない」
いくら俺の事を熟知している彼女にだって言えない。守り神に会った事なんて。化け物を射抜いた事なんて。
「……秀。聞いたよ。大会、ダメだったって」
「あぁ……」
「大学、行かないんだよね??」
「うん。俺の家はそんな裕福じゃないからな。近所に八百屋あるだろ??あそこの爺さんが後継探してたからお願いした」
「そっか。……秀はそれでいいの??」
「え??」
「大学行かなくても、弓道は続けれるんだよ??それこそ社会人サークルだってあるし……」
「もう俺はやめるよ」
「でも……」
「希美が俺に弓道を教えてくれたのは有難いと思ってる。でももう、終わりなんだよ」
『秀はね、一つの事を真面目に貫けるから』
『ねぇ、弓道って知ってる??』
『私のお父さんがやってたの。秀ならきっと出来る気がするな』
『陸上??それは私がやりたくてやってるの!!……でも秀は違うでしょ??』
『一回試しにやってみなよ!!お父さんにお願いしとくね!!』
幼い頃に彼女がそう言って始まった俺の弓道人生。
希美は短距離で県大会で優勝出来るぐらいには実力がある。……今はもう、辞めてしまったらしいが。
「秀、隠し事してるでしょ??」
「は??」
「あのねぇ、幼馴染を舐めないでくれる??」
いつだってそうだ。
無駄に年上感を出して、俺を心配する。
たまに嫌気はさしたが、彼女は本当に俺の事を心配しているのは分かる。
だから俺はちゃんと言うんだ。
「希美に隠し事なんか出来ないだろ」
その言葉で誤魔化されるのを知っているから。
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