9話 祈りの檻

屋上の冷たい風が二人を包む。

スイレンはゆっくりと口を開いた。


「君の中に眠るものは、ただの力じゃない。あれは──最上位悪魔エンド・フラワーの力。封印の依代だ」

ユリは眉をひそめ、腕を組む。

「封印の依代……? それって、呪いってこと?」

「そう。でも君は、その呪いを浄化する役割を持っている。君の祖母がそれを教えてくれなかったか?」

ユリは記憶の奥底を探るように目を閉じる。

幼い頃に聞いたはずの、けれど薄れてしまった言葉の断片。


「でも……どうして私にそんなことを?」

スイレンはうつむき、声を低くする。

「私も《花弁の教団》の一員だ。だが、私たちが望むのはただの破滅じゃない。呪いを終わらせる道は、君と共にあると思うの」


その言葉に、ユリの胸に小さな光が差し込んだ。


その夜、スイレンは教団の秘密の集会に戻った。

薄暗い倉庫の中、黒い影が幾つも揺らめく。

ローズが冷ややかにスイレンを見つめる。

「またあの子と接触? 愚かだわ、焦りばかりで先を見通せていない」

シャクヤクは腕を組み、陰鬱な声で続けた。

「お前の未来視が本当なら、あの娘は災いの根源だ。早急に処分すべきだがな」


だが、スイレンは歯を食いしばり、強く否定する。

「違う。彼女が浄化の鍵だ。私たちの未来は変えられる」


争いの影が濃くなる中、教祖たちの過去の悲劇がちらりと示される。

ローズが虐待されていた幼少期。

シャクヤクが家族を奪われた夜。

ロベリアの笑いながらも心に深く刻まれた罪悪。

マリーが失った愛しい家族の影。

ダリアの裏切りに燃える心の傷。

キキョウの孤独と閉ざされた心。


それぞれの痛みが交錯し、彼女たちを「花弁の教団」に縛り付けている。


「呪いは終わらせる。だが、その前に私たち自身を浄化しなければならない」

スイレンの決意が闇を裂く。


そして、ユリの覚醒への道は、まだ始まったばかりだった。

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