8話 星と黒百合の間で

翌朝。薄曇りの東京の空が、ユリの部屋の窓から差し込んでいた。

彼女は枕元の黒百合を見つめながら、昨夜の夢の続きを思い返していた。

無数の魂の声、破滅を告げる悲しみ、そして自分の中で眠る何か――。


「私は……一体、何なんだろう」


ユリは静かに呟くと、着替えを済ませて家を出た。

通学路には普通の高校生たちが行き交う。

けれどユリは、誰とも交わらず、視線を落として歩いた。


学校の教室では、隣の席の女子が何か話しかけてくる。

「ユリちゃん、今日の部活来る?」

ユリは微かに笑みを返し、首を横に振った。

「今日はちょっと用事があるの」


その日の放課後。

ユリは一人、学校の屋上に向かった。

誰もいない静かな場所で、彼女は何度も手を握りしめ、呟いた。


「浄化の巫女……覚醒しなければ」


突然、屋上の風が強く吹き、ユリの髪と制服の裾がはためいた。

黒百合の花びらのように、遠くからかすかに聞こえる声。

「覚醒せよ……世界の破滅を止めよ……」


彼女の瞳が白く輝き始めた。

力が体中に満ちていく。だが同時に、押し寄せる苦痛も強まる。

「まだ、使いこなせない……」


その時、屋上の扉が大きな音を立てて開いた。

「ユリ、そこにいるのか?」


声の主はスイレンだった。

未来視で見た絶望の結末を阻止するため、彼女はユリに会いに来たのだ。

「話がある。君の力、そしてこれからのこと」


ユリは少し戸惑いながらも、スイレンの差し伸べる手を取った。


「私たち、共に戦うべきだと思う」



こうして、ユリとスイレンの物語は動き出す。

陰影の中で蠢く「花弁の教団」の影、そして世界を揺るがす「エンド・フラワー」の呪い。

その先に待つのは、絶望か、浄化か――。

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