10話 私たちの世界には出口がない

教団の集会を後にしたスイレンは、夜の街を足早に歩いた。

重く冷たい空気が、彼女の胸を締め付ける。


「未来が見えるって…本当に救いなのか?」


孤独に包まれた思いが、胸に押し寄せる。

けれど、ユリという存在だけが、唯一の光だった。


一方、ユリの部屋。

窓から差し込む月明かりが、彼女の横顔を淡く照らす。


「私の中に…悪魔がいるなんて、信じられない」


鏡に映る自分を見つめながら、胸の奥に押し込めていた不安と恐怖が顔を覗かせる。

それは、まだ形にもならない、重たい何か。


翌日、学校の教室。

友人はいない。けれど、その静けさが、彼女には気楽だった。

誰にも言えない秘密を抱えたまま、日常は続く。


放課後、ユリは誰もいない図書館で、古びた一冊の書物を開いた。

それは、祖母が遺した魔術の記録だった。


ページをめくるたびに、封印の巫女たちの歴史が語られる。

そして、彼女が受け継ぐべき使命が徐々に明らかになる。


「これが、私の…運命なの?」


その時、不意に風がページをめくり、ある言葉が目に飛び込んだ。


「浄化の力は、己の弱さを受け入れた時に覚醒する」


胸が締め付けられるような感覚。

ユリは深呼吸をし、決意を新たにした。


同じ頃、教団の秘密拠点。

ローズが冷ややかな目で語る。


「ユリを殺してしまえば、すべて終わる。だが、私はそれができない」


その言葉に、教祖たちの複雑な感情が渦巻く。

憎しみ、怒り、罪悪感、悲しみ、裏切り、孤独…それぞれの胸に深く根付く花言葉の影。


「このままじゃ、私たちも滅びる」

シャクヤクが呟いた。


呪いと過去に縛られた少女たちの物語は、まだ始まったばかりだった。


ユリが祖母の魔術書を閉じると、窓の外で不穏な風が吹き始めた。

暗い雲が街を覆い、彼女の胸のざわつきと重なった。


「この力、制御できるのだろうか…?」


疑念が頭をよぎる。彼女は自分の中に潜む、エンド・フラワーの存在に抗おうとしていた。


その夜、教団の秘密拠点。薄暗い部屋の中、ローズが拳を握りしめていた。

「力を持つ者がどうなるか、見せてやる」


「憎しみが力になるなら、私は最強だ」

彼女の目には燃えるような情熱と、深い悲しみが同居していた。


一方、スイレンは未来視の映像に目を凝らす。

悪魔の復活が近いことを、何度も何度も見てしまう。

だが、それを変えられない自分に苛立ちを感じていた。


「未来は決まっていない。そう信じたい…」


その思いを胸に、彼女はユリを見守る覚悟を決めた。


翌日、ユリは学校の帰り道、ふと足を止めた。

見慣れた公園の花壇に咲く黒百合の花が、風に揺れている。

その花言葉は「呪い」と「復讐」。


「まるで私のことみたいだ…」


胸に込み上げる感情を押さえ、彼女は小さく呟いた。


「でも、私は負けない。私が浄化の巫女だから」


その言葉に、微かな光が宿った気がした。


暗闇の中で、ユリの運命は少しずつ動き始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る