第9話 始まりの評定は三人で

1568年7月 勝尾カツノオ城筑紫館  筑紫チクシ俊介シュンスケ広門ヒロカド


「俊介様、斎藤様からスズが贈られたとお聞きしましたが?」


 話を振ってきたのは筑紫四郎貞治サダハルだ。俺が目覚めたときに島の隣にいたジジで、どうも俺が勝手に斎藤の娘と婚姻を結んだことが気に入らないらしい。


 偽銭にも渋顔ジュウメンだったし、俺がやること兎に角まずは爺を説得することから始まることが多くなっている。

 どっちが当主なのか分からんな。


「商人を通すと高くつくからな。大友には錫鉱山があるゆえ相談したところ直ぐにお送りいただけた。もちろんきちんとお支払いしているぞ。今後も取引をしたいからな」


「さようですか。殿はずいぶんと斎藤殿と懇意にしていらっしゃるようですな?」


 父親を殺した男の娘と婚姻するのだから気に入らないのは、まぁ当たり前だな。俺があっさり受け入れ態度でいるのも不愉快なのだろう。

 だけどそんな風に嫌味ったらしく言わないでいいと思う。婚姻の約束をしてから一年も立つのに何時までもチクチクと……。


 この辺は島の方がサバサバしていた。普段から殺し殺される関係に慣れているからかもしれない。


「銭を作るのに必要なのだ。悪銭をそのまま溶かしては質が悪い故な。少しばかり錫を足す必要がある」


 返事をしたら隣にいた島がフォローしてくれた。


「お主も銭づくりが上手くいっていることを見て納得したではないか」


「それは商人からスズを買っておったからじゃ。あまり斎藤殿と懇意にいたすと城内で反感を覚えるものもおるでな」


 昨年の夜襲から帰った後、二人とも俺を若様から殿と呼ぶようになっている。

 今ではもう慣れた呼び名だ。


「越前入道殿から何かあれば斎藤殿に頼るように言われているのだ。あまり勝手はできん」

「う~む」


 越前入道の効果は絶大だ。

 あの人めっちゃ偉い人だからな。百五十万石のナンバー2だ。

 ちなみに筑紫は七千石。マジで何で烏帽子親になってくれたんだレベルだが察しは付いている。筑紫に道としての価値があるからだ。

 まぁ今度会った時に探りを入れるつもりだ。


 爺を見ると小難しい顔をして考えこんでいた。


 爺こと四郎貞治のことは血がつながった叔父ということで親しく爺と呼ばせてもらっている。


 一度四郎殿と呼んでしまったら「若様,家督を継ぎしましてもこれまで通り爺と呼んでくださいませ」と言われてしまった。

 なら俺の事は殿と呼べと言ったら目をパチクリしていたな。


 叔父なのに爺なのは老け顔なので子どもの頃からそう呼んでいたからのようだ。

 子供に年寄扱いされて怒らないのだから出来た爺だ。


 とはいえ老けているのは顔だけで,白髪は全くなく量もしっかりある。それに眉やヒゲをいつも整えてビシッとしてオシャレだ。

 髪を染めているのかな。ちょっと気になるところだ。


 ちなみに烏帽子親をしてくれた越前入道はいかにもお爺ちゃんだった。程よく白髪があって眉がふさふさで垂れているんだ。苦労している様子が見て取れた。


「斎藤殿とお近づきにならざる得ない事情はお分かり致しました。いずれ婚姻を結ぶのですからな。宜しいでしょう。それでネジは無事に売れましたかな」


「順調だから安心してくれ。半分前金で受け取って、残りは来月か再来月、畿内で売りさばいたら手に入る予定だ。畿内では鉄砲作りが盛んなようだ。直ぐに売れるだろうと言っていたよ」


「なんと、それはそれは……よろしいことで」

 爺はあんなよく分からんのが売れるのが信じられないという顔だな。


 ネジは火縄銃に使われるんだ。

 そしてこれからの日本は火縄銃の生産が伸びる一方だ。いちいち鋳造してヤスリで削るより、安定した品質で低価格のものが有れば買うに決まってる。

 鉄砲鍛冶はめちゃくちゃ忙しいからな。


「だから四郎殿は心配しすぎなのだ。銭作りの時もそうだったではないか」

「お主は少し浮かれすぎじゃ。確かに銭作りが上手くいって喜ばしいことだが、他家に知られれば大変じゃぞ」


 そう、機密性が重要な銭作りはこの3人以外は人足ニンソクしか知らないことだった。


「戦で怪我をしてロクに動けぬ者を選んで人足に雇っておる。家族もおらぬ独り者ばかりをだ。場所も勝尾城から更に山奥であるし、そうそう露見することでもあるまい」


 島がそう言う。

 手足を失った者、目が見えない者、そういった人達に働いて貰おうと提案したのは島だった。彼らも生きていかなければならない。


「二人とも承知したな。それでは評定を始めるぞ」

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戦国怒涛 ~弱小領主による『天下統一』~無実の罪で殺されそうなので修羅の国を統一する!!〜 逆川水府@毎日更新 @minkuma

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