第6話 大友の要、越前入道
1567年7月
「確かに
老人が手で追い払う
「ご苦労だったな。斎藤
「恐れ入ります」
深く頭を下げる。儂が頭を下げるのは殿の他には此のお方だけだ。
「高橋と秋月の乱を収めるのは時がかかりそうじゃ。そのような折に筑紫を速やかに鎮圧したこと誠にあっぱれであった」
目の前に
筑紫を降伏させたことを喜んでいただけたようで何よりだった。だがこれからご報告することをお聞きしたら何と言われるだろうか。
「それで、二人だけで話があるとは穏やかではないな」
奇妙な
だがこのお方に隠し事をしたくない。いや、してはならない。大友家の筆頭家老であらせられる吉岡
当主宗麟様が
今や大友家の石高は150万石になろうか。
越前入道様の進言により幕府と関係を密にし
これは一騎当千の猛将が大友家に多くいたというのも大きかった。しかし宗麟様のご信頼厚く、外交と六カ国の政務、そして我ら大友の将を使いこなせる人物はただ一人、越前入道様以外おられない。
まさに大友の
「はっ、恐れながら申し上げます。この度下した筑紫俊介殿と、我が息女、
「斎藤家の祝言を儂はどうこう言える立場ではない。筑紫俊介なるもの傀儡にできそうか? いや、そうであれば二人だけで話すことになっておるまいな。一筋縄ではいかぬ童か」
その通りだ。
お話しなくてはならない。お話ししなければ。
その童に寝所を襲われたこと。
おめおめと逃げられたこと。
おのれ,おのれ,おのれ,おのれ,おのれ,
「兵部少輔、煮え湯を飲まされたか。その様子を見れば話さずともわかるぞ」
いつの間に
お言葉に甘えてはならぬ。それは大友の将ではない。
断腸の思いで口を開き、全てを包み隠さずご説明した。
「なんと
「口が腐る思いでございました」
顔を上げることができなかった。
落ち着け、これではお話ができぬ。
「小童めは大友の
「はっ」
「兵部少輔、かじ取りは難しくなるやもしれぬが、筑紫は何としてもこちらに引き寄せねばならぬぞ」
「それは如何なることで御座いましょうか」
入道様が立ち上がり、わざわざ目の前に来られて膝をつかれた。そして声を潜めるように説明くださった。
「知っての通り高橋と秋月が領内で反旗を掲げ戦になっておる。加えて立花、宗像もきな臭い。これ以上敵を増やしては毛利は間違いなく付け入ってくる」
「……」
「わかるな? 一人でも多くの味方が必要な時なのだ。筑紫が何か求めてきたら儂を通せ。それと祝言を上げるならば先に元服せねばならんな。儂が
なんと。
筑紫を重要視しておいでだ。考えを改めねばならん。
田舎侍と思っていたが、娘が嫁になるのは不幸中の幸いかもしれぬ。
「悪銭はすぐに送ってやるがよい。エサを惜しむ時ではない。それに祝言のめでたい席に送るものでもあるまいて」
そこまで気に掛けるとは,領内の状態は想像以上に悪いのだと思った。
「その筑紫の童だが、父親が腹を切ってから押し入って来たのは確かなのだな?」
そうだ。小童は戦いを主張する父親と仲違いして来たのではなかった。
「400貫か、それだけ得られることがわかっておれば、狂犬もそれまでは大人しくしていよう。であれば婚姻はしばらく遅らせた方が良いな。殿には儂から話しておく。娘には様子を逐一報告させるのだぞ」
「かしこまりました」
「童、筑紫俊介か。烏帽子親になるのだから名を考えてやらねばな。父は
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