第6話 私達に今できるケアを

利用者の認知症の進行や体力低下を心配する声が、現場職員から上がっていた。

1日の大半を1人でベッド上で過ごし、食事の時間の時だけ起きてくる日々が続いていた。

利用者とっても、日常にメリハリがなくなっていた。

楽しみにしていた定例行事も延期となり、日々の楽しみすら奪われていた。


そんな中、職員たちから「各フロアの持ち場でもできるレクリエーションや体操を行っても良いか」と提案があった。

居室内で利用者を車椅子に移乗させ、廊下側を向いてもらい、扉を全開にする。

職員は廊下側からラジオ体操を行った。

そんな姿が、あちこちのフロアで見られるようになった。

配属されたフロアの居室を1室ずつ回りながら、職員が自主的に体操を実施していたのだ。


普段、塗り絵が習慣になっていた利用者には、塗り絵道具を居室に持ち込み、習慣が継続できるように配慮した。

創作レクリエーションを好む利用者には、折り紙や新聞広告などの道具を届け、自分のペースで取り組めるように支援した。


さらに、利用者の姿を写真撮影し、それを印刷してご家族宛にへメッセージを書いてもらう取り組みも行った。

自分で文字が書けない方には、職員が代筆をして様子を記載した。

そのカードは、毎月の施設利用料と一緒に同封して郵送するという、アナログではあるが温かみのある方法だった。

「少しでも家族との繋がりを保って欲しい」そんな願いから始まった取り組みだった。


メッセージカードを受け取ったご家族の中には、返事を寄せて下さる方もいた。

現場職員を労うお手紙もあり、それらはすぐにホワイトボードに掲示し、現場職員が見られるようにした。

手書きの温もりが、現場で働く私たちに力を与えてくれていた。

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