第7話 現場と他部署

現場職員の感染者が増加し、いよいよ現場の人員だけでは業務が回らなくなってきた。

他部署への応援要請を行うことにした。


快く応じてくれる職員もいれば、そうではない職員もいた。

「この時間だけなら。」と時間に制限をつける職員。

陰性の利用者からナースコールが鳴っても「介護さん、ナースコール鳴っていますよ」と伝えるだけで、介助に入ろうとしない職員。

「私達はあくまで『お手伝い』なので。」と言い切る職員もいた。


また、家族からの電話の問い合わせや、クレームを受けた職員が「現場はどうなっているんですか?」と苛立ちをぶつけてくることもあった。

中には「現場を手伝うのは良いけれど、自分たちの仕事は誰も手伝ってもらえないのに。」と心無い言葉を口にする職員もいた。


「事務所から助っ人が来るはずじゃなかったんですか?」

現場職員からの問い、回答したり宥めたりするのも、次第に心がすり減っていった。


そんな中、病院からは感染制御チーム(ICT)が視察に訪れた。

しかし、その情報は現場には事前に伝えられていなかった。


チームのメンバーは、現場職員のガウンテクニックや感染対策の方法、動線の見直し等を行っていた。

誰かも分からない外部の人間に、突然ガウンテクニックの実技に注意を受け、戸惑う職員や、腹を立てる職員もいた。


「なぜ、病院の職員に怒られなければならないんですか!」


誰もが、感染したくないという思いは同じだった。


それでも、現場と他部署の間にある温度差は、どうしても埋めることができなかった。

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