第5話 職員の不満

新型コロナウイルス対応が連日続き、職員の疲れもピークに達していた。


N95マスクは想像以上に息苦しい。

空気漏れがないように、ぴったりと装着しなければならない。

世界的なパンデミックにより、N95マスクの入手も困難になっていた。

鼻の上の金具が皮膚に食い込み、赤くアザが残る程だった。

更に、その上からサージカルマスクも重ねて装着する。

長時間の着用は想像以上に厳しく、職員の体力を消耗させる大きな要因となっていた。


更に職員への負担となったのが、フェイスシールドだった。

シールドによって光が乱反射し、目がチカチカして焦点が合いにくくなる。

強力なゴムで頭部を締め付けられ、頭痛や眩暈に悩まされることも多かった。


ガウンも想像以上に暑く、動きにくいため介助がしにくい。

手袋も2重に装着しており、指先の感覚も普段とは違っていた。


私は現場を指揮する立場だった。

各フロアに必要な物品を台車で運搬しながら、現場の職員へのフォローや声掛けも心がけていた。

職員の疲労が限界に達しているのは、誰の目から見ても明らかだった。


「いつまで続くんだろう。」

「明日も出勤かな。」

「自分も感染していたらどうしよう。」


定時ではもちろん帰れない。

特に日勤者の残業は免れなかった。

夕食の配膳や下膳、食事介助を全員完了させてから退勤するようになっていた。

栄養士と厨房とも連携をして、夕食の時間を早める事は出来ないかを工夫した。

幸いにも誰も残業に対して、文句を言う職員はいなかった。


病院とは違い、家に帰れない日があるわけではなかったが、人手不足のため、休日でも出勤をお願いする事が日常であった。

誰もが「仕方がない」と理解してはいたが、「もしかしたら休日が出勤になるかもしれない」というストレスは大きかった。


最初の感染者が出た際、濃厚接触者となった職員が自宅待機となり、現場は連続勤務を余儀なくされた。

その為、該当職員が復帰してくるタイミングで、連続勤務が続いた職員にしっかりと休暇を取ってもらうよう調整を行った。


中には「いつ自分が感染するかもしれない」「終わりが見えない」と、体力的にも精神的にも限界を迎え、泣き出す職員もいた。


そこで私は、看護師長と施設長に「隔離期間やコロナ対応のゴールを設定できないか」と相談した。

見えないゴール程、不安なものはなかったからだ。

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