第8話 画面越しの家族
新型コロナウイルス発生から、すでに2カ月が経っていた。
その間、利用者と家族の直接対面での面会はずっと中止されたままだった。
施設から外部への情報発信といえば、ホームページや配信メール程度。
施設側からの一方的な情報では、利用者や家族の不安を十分に解消する事はできなかった。
「家族の顔が見たい」
利用者も家族も、同じ思いを抱えていた。
どうにか面会ができないか、職員たちは模索を始めた。
そして、施設では家族のためにタブレット端末を購入する事を決めた。
2台のタブレットを使ってLINEで繋ぎ、オンライン面会を可能にした。
当時はまだ「オンライン」という言葉自体が、広く普及していなかった。
家族も職員も馴染みが無く、戸惑いもあった。
しかし、「LINEのビデオ通話」と説明すると、すぐにメージが湧き、理解も得られた。
タブレットは2台しかなかった為、オンライン面会は予約制にした。
その予約は、すぐに埋まった。
面会当日、家族へは施設の1Fロビーから事務所用のタブレットを使用。
利用者はナースステーションからフロアのタブレットを使って応じた。
画面越しに、ついにオンライン面会がスタートした瞬間だった。
久し振りに見る家族の顔。
無事な姿を確認し、安堵のあまり涙を流す家族もいた。
ただ、利用者にとってはタブレット操作に慣れるまでに時間がかかった。
画面越しで手を振る家族の姿に、思わず画面を触ってしまい、通話が終了してしまうこともあった。
機械のスピーカーでは音声が小さく、聞き取りにくい事も多かった。
その為、現場職員が利用者の隣に付き添い、家族の言葉を耳元で伝えるなどの支援が必要だった。
数日間の試行運用の中で、問題点や実施時間の調整を行い、改善を重ねた。
利用者も職員も少しずつオンライン面会に慣れていった。
そしてついに、施設のLINEアカウントを家族へ公開し、スマートフォンとの接続も可能となった。
予約制は継続しつつも、時間制限を設けることで対応の幅を広げた。
季節は冬から春へ。
そして、夏を迎えようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます