第3話 新たなる感染者
全職員が新型コロナウイルス対応期間の業務を経験し終えるまでは、混乱が続いていた。
そんな中、ある出来事が起きた。
「外線が入っています。」
事務所からPHSへ内線が入り、呼び出された。
恐れていた事が現実となった。
感染症対応にあたっていた職員が、新たに感染したとの連絡だった。
発熱があり、声はガラガラで、咳き込みも酷かった。
すぐに上層部へ報告し、現場の職員にも情報を共有した。
現場への衝撃は大きかった。
「今度は、誰が感染するんだろう・・・。」
そんな不安な声が、職員の間でもささやかれ始めた。
その日の昼頃、利用者が咳き込んでいるという情報が入った。
時間の経過とともに発熱も見られ、PCR検査を実施。
結果は、陽性者だった。
感染者が複数となった事で、感染対応用のフロアを新たに設ける事になった。
感染が確認された利用者を、新しい感染フロアへと居室移動させた。
そのフロアの境界線には、養生テープによるゾーニングも行われた。
看護師長による感染症対策の実技訓練が、改めて行われた。
手指消毒、ガウンテクニックの脱着、基本に立ち返る場となった。
この日から、食事に使用する食器は、ディスポ食器へと変更となった。
一見すると、片付けの手間が減る分、効率的に思えた。
しかし、すぐにその限界に直面する。
高齢者、とくに片麻痺のある方には、ディスポ食器は軽過ぎたのである。
食器自体に滑り止めもついておらず、肩手でスプーンを使って食べようとすると、食器自体が動いて転がってしまう。
自助食器や自助具に慣れている利用者にとって、食事の時間は苦痛そのものになってしまった。
下膳のために居室を訪れると、床に器が転がり、お膳の上にはこぼれた食事が散乱している光景が日常となっていった。
この日は、感染拡大の1日となった。
そして、それは「介護崩壊」のはじまりを意味していた。
まさに、介護施設にとっての「緊急事態宣言」だった。
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