真っ向勝負

 がらがらと音を立てて神殿跡の土台が崩壊し始め、エルクリッドはダインをすぐに呼び寄せバエルもまた数歩引いて隠されていた地下空洞の存在には無関心を貫く。


(運、というやつか。あるいは……)


 かつて好敵手との戦いで神殿そのものを破壊し尽くしたが、それで壊れなかったものが今壊れたのは偶然か否かはわからない。


 確かなのはエルクリッドが最後まで諦めず、呼応してダインも戦い抜いた結果が出たということ。エルクリッドもまた、かつてシリウスがダインと同じチャーチグリムをアセスとし、背負う円環を触手のように使っていた事を咄嗟に思い出してダインもそれに応えた形だ。

 だが流石に無理が祟ったのかダインはよろめいてからその場に伏せ、察したエルクリッドがすぐにカードへと戻す。


「ありがとねダイン」


 色彩を失うダインのカードに声をかけてしまいながらエルクリッドは地下空洞を覗きこもうとしかけるも、まだ戦いは終わってないと思い直す。

 すっとバエルが向かって右手側に手を向けて移動を促し、それに応じる形でエルクリッドも歩き始め、見守り続けていたノヴァ達も後に続く。


(エルクさん……すごい……)


 今すぐ駆け寄りたい思いをぐっと我慢しながらノヴァはエルクリッドの後ろ姿を見つめ、その姿にタラゼドは微笑みつつ改めてエルクリッドを紹介したクロスの判断の正しさや、彼女自身の資質を感じ取り思いを馳せる。


(エルクリッドさん……あなたは、きっとクロス以上のリスナーになれるでしょう。そしていつか……)


 今のエルクリッドはリスナーとして素晴らしい姿勢を貫き、それはシェダとリオも嫉妬する程に精巧なもの。無論ただそう思うだけではなく、彼女と並び立つ為に研鑽し鍛え抜く理由となることも理解し、高鳴る思いを静かに抑える。


(エルクリッド、お前ならできる。勝てる……!)


(気高きエルクリッドに加護があらん事を……)


 仲間達の思いが何となくエルクリッドは感じられ、立ち止まって荒野で仕切り直される戦いへ思いを向ける。


 残るアセスはヒレイとスパーダのみ。エルクリッドが選ぶのはスパーダで、静かに呼び出された彼女は大剣を構え臨戦態勢でバエルの召喚を待つ。


 そのバエルはというとカードを引き抜こうとすると、心へと語りかけてくるアセス・マーズの怒気を感じて手を止め、目を閉じ対話に応じる。


(初めから妾を出して蹴散らせば良いものを小娘に合わせおって……さっさと終わらせぬか)


(指図を受ける言われはない)


(貴様……今ここで契約を打ち切ってもいいのだぞ?)


(とにかくもう少し待て。お前を出す時は、すぐに来る)


 真化したアセスであるマーズを最初から召喚することはバエルも考えとしてはあり、そしてそれはエルクリッドも想定していると踏んでいた。

 唸り声を上げ威嚇してくるマーズにため息で応えつつ、改めてカードを引き抜き魔力を込め次のアセスを呼ぶ。


「行け、サターン」


 屈強にして重厚なる動く悪魔の石像ガーゴイルのサターンがずしっとバエルの前に現れ、石の翼を広げ臨戦態勢となりスパーダの手に力がこもる。


(ここであのガーゴイル……倒さなければ、強くなったとは言えませんね……!)


 二年前のあの日にバエルが繰り出したのもサターンであり、その時は全く歯が立たなかった事をスパーダは思い出し深く息を吐く。

 同じ思いをしたセレッタや、奮戦してくれたダインの分も戦わねばと逸る気持ちを抑え、エルクリッドもまた同じように冷静にサターンの分析に入る。


(物理も魔法も平均以上に行える万能のアセス。攻撃力、防御力、機動力も申し分ない……でも、やるならここしかない)


 バエルを打ち倒す策を狙う時がこことエルクリッドは判断しつつも、それをするにはサターンは強敵であり無謀とも思えた。だがだからこそ、乗り越えて強さを目指さねばと、闘志宿す目に光が灯りスパーダもまた呼応するように走り出す。


「スペル発動アースバインド!」


 二人のリスナーが同時に同じスペルを発動し、割れた大地より伸びる木の根をスパーダはその速さで振り切り、サターンはその剛力で引き千切り接近したスパーダが振り下ろす大剣を真っ向から掌底で受け止め、衝撃波が周囲に拡散し風が巻き起こる。


 刹那、サターンの魔力の高ぶりを感じてすぐに離れようとしたスパーダだが、剣の刃を掴まれそのまま投げ飛ばされ、そこへ力強く大地を殴るサターンが鋭い岩の柱を次々と生やさせ追撃を行う。


「スペル発動エアーエッジ!」


 エルクリッドのスペルを剣で受け取ったスパーダがかけ声と共に縦一閃に剣を振り抜き、風の巨大刃が迫りくる岩の柱を両断し相殺してみせる。

 次の瞬間、低空飛行し間合いを詰めたサターンにスパーダは頭を捕まれそのまま地面に叩きつけられ、そのまま飛行し引きずり回され近くの岩へと叩きつけられた。


「まだだっ!」


 兜が砕け顔が半分見えたスパーダの目から光は消えておらず、頭上から急降下で迫るサターンの正拳を避けつつ勢いを利用し左腕を切り飛ばす。

 すぐに両者反転し互いに蹴りを繰り出し、ここでスパーダの右足の鎧が完全に砕け散るも片足で姿勢を維持したままサターンに狙いをつけ、エルクリッドの名を叫ぶ。


「エルク!」


 刹那にサターンが残る右腕で爪で刺し貫かんとするも素早くスパーダはそれを切り飛ばし、エルクリッドもまた深呼吸をしその術を使う。


「古の時代より天上に君臨せしもの、その猛威を振るうべく今ここに目覚めよ……!」


 カードを引き抜き両手を合わせて魔力を集中させながらエルクリッドは詠唱し、それを聞いたバエルはすぐに詠唱札解術と悟り素早くカードを選び抜く。


「スペル発動アセスフォース」


「スペル、発動! ドラゴニックレイブ!」


 カードより解き放たれた魔法がスパーダの剣に宿り、そのままサターンの腹を刺し貫くと大きく凹み全身にヒビが走る。

 

「これで決めるよ! スペル発動、オーバーブレイク!」


 超過した攻撃力を他のアセスへと伝播させるオーバーブレイクを使用し、スパーダが深々と剣でサターンを貫き通し、そのまま真一文字に両断しかつて敗れた相手への雪辱を果たす。


 そして、サターンが倒された衝撃がバエルの全身を貫き、最強と呼ばれるリスナーはついに片膝をつくのだった。

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