逆転劇
エルクリッドがカードを引き抜き、ダインも足に力を入れてネプチューンへと迫る。相手は属性や魔法を受け付けず、物理攻撃に対しては爆発による反撃能力を得た状態だ。
それをどう攻略してみせるのかはノヴァ達はもちろんバエルも注視するところではある。
「ネプチューンが一切動けないと気がついたか。だが倒せないなら意味はないぞ」
「でも攻撃スペル使えば動けないのは関係ない、でしょ。だからここで倒し切ってやるんだから!」
「ならばやってみろ。スペル発動、アースフォール」
バエルの狙いを読み切っていたエルクリッドに呼応する形でダインが降り注ぐ岩の雨を避けていき、その中でエルクリッドはダインが定位置に戻るのを待ってカードを構える。
(このカードを有効的に使うには距離を詰める必要がある。バエルの奴もあたしの作戦の分析を終えて攻めてくるだろうし、ここからが正念場……!)
攻撃スペルは使用後の充填時間が長く、次のカードを使うまでの時間も長くなりがちである。それと同時に出方を分析する為にネプチューンを繰り出したとエルクリッドは確信し、攻略の切り札を切るべき刹那を待ちながらダインの支援を行う。
「スペル発動アースフォース!」
「スペル発動フォースブレイク」
フォース系スペルを無効化するフォースブレイクによりエルクリッドのダインへの支援は失敗し、しかし自力でアースフォールによる岩の雨を全て避け切ったダインが岩を飛び移りながらネプチューンへと向かう。
「今だ! スペル発動ソニックシャウト!」
「詰めが甘い。ツール使用、エンチャンター、これをダインに装備する」
ネプチューンとの距離を詰めたダインにエルクリッドがスペルを切り、それと同時にバエルもまたツールカードをダインに対して使用し四色の宝石をつける首飾りがつけられ、次の瞬間に大音響の咆哮をダインが放ちその威力はネプチューンを浮かせ、バエルがその場に佇むのを許さぬ程の衝撃波となる。
しかし、エルクリッドは舌打ちしてダインにもその意思が伝わり咆哮をやめ、首飾りを前足で外そうとするも取れずにいた。
「ソニックシャウトを使い、アセスの咆哮を無属性攻撃とし使ってネプチューンを攻略しようというのは褒めてやる。だが属性をつけてしまえば無力化できる」
(エンチャンターは無属性攻撃にアセスの属性を付与するツール……読まれた……)
額から流れた汗が静かに落ちる。エルクリッドの狙いに対しすぐさま対処しカードを選ぶバエルは簡単には打ち崩せない。
戦いの流れが少しずつバエルへと傾き、エルクリッドの心に負けたくないという思いが強くなるが、ぱんっと両手で頬を叩き気を引き締め直す。
「くぅーん……」
「大丈夫だよダイン。すぐ外すからおいで」
耳と尻尾を下げたダインを呼んだエルクリッドは頭を撫でてやってからエンチェンターを外して踏み砕き、凛としバエルを捉え直すと判断を迫られる。
元々ソニックシャウトによる触れずに可能な無属性広範囲攻撃でネプチューンを倒すつもりでいたが、それを阻止された事で倒し切るにはヒレイを呼び出すしかない。
(できればまだ呼びたくはない……でも……あいつはそれを待っている)
自分からは一切動かないスライムのネプチューンを使うのはこちらの動きを誘導する為とエルクリッドは読み、ヒレイを呼ぶのを躊躇う。
仮にネプチューンを倒したとしてもその後出てくるアセスによって戦い方も変わり、巨体のヒレイでは戦いにくい相手の場合は尚の事だ。
その場合は再び戻すしかないが、少なくなったとはいえヒレイの召喚時の魔力消費は大きく、何度も呼び出せるものではない。消耗戦を仕掛けたつもりが逆にはめられている状況に、エルクリッドは軽く歯を食いしばる。
(どうするあたし……何か、何か……)
リスナーは冷静であるべし。師の言葉を思い返しながらエルクリッドは策を模索する。
手持ちのアセス、カード、敵、天候、場所、あらゆるものをつぶさに観察し、バエルがカードを引き抜いたその時、あるものに目が止まり一気に道を見出す。
「これなら……ダイン、ぶっつけだけどやれる!?」
「ばうっ!」
何かを閃いた様子のエルクリッドに応えたダインが臨戦態勢となった事にバエルは目を細め、使おうとしたカードを一度戻し選び直しながら意図を予測する。
(今のネプチューンを倒すには強烈な無属性攻撃を食らわせるか、攻撃後に欠片を全て始末するしかない。だがチャーチグリムは前者をできるような攻撃力はなく、後者をやるソニックシャウトはさっきと同じやり方で潰せるが……)
エルクリッドとダインの目に諦めの色はない。最後まで戦い抜く意志があり、何かを狙っている。それが見えない事にバエルは、口元に笑みを浮かべるとカードを切った。
「スペル発動アセスフォース!」
「スペル発動フォースブレイク!」
二枚目のアセスフォースに対しエルクリッドが即座にフォースブレイクにより無効化し、駆け抜けるダインを支えネプチューンへ近づけさせる。
だがバエルからすれば完全防御状態たるネプチューンに対し、爪と牙しか武器を持たないダインが無力なのは明白だ。しかしだからこそ、狙いを見たいという思いもまた強くなっていく。
(さぁどうする、爪と牙では火炎蝶の鱗粉が起爆するだけだぞ)
「ダイン! 縛り上げて高く飛ばして!」
エルクリッドの指示にバエルは一瞬思考が止まり、刹那に理解した時にはダインが背負う円環を解き帯のようにし、それを伸ばしてネプチューンを拘束する姿を捉えた。
爪と牙ではない第三の武器、チャーチグリムという魔物が常に背負う金の円環の使い方にバエルは感心しつつも、エルクリッドの策を崩しにかかる。
「そういう使い方もできたとはな……だが、ネプチューンは吸収能力を持っていないわけではない」
帯のように伸ばした円環を通してダインの力をネプチューンが吸い始め、さらに想像以上に重い事から持ち上げるのが叶わず苦悶の声をダインが漏らし始める。
万事休す、かに思われたが、エルクリッドは諦めずにカードを切った。
「スペル発動ビーストハート! ダイン!」
目をカッと開くダインが雄叫びと共に全身を使ってネプチューンを頭上へと放り投げ、その光景にバエルも思わず目で追ってしまう。
刹那、落下してくるネプチューンが自重により舞台を貫き崩壊させ、そのまま下層へ落下し、地下空洞へと消えていく。
やがてバエルとの距離が大きく開きすぎた為にカードへと戻り、彼の手へと帰ってくるも絵柄から色彩を失い戦闘不能となったのを暗に示す。
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