第18話 命乞いと課された条件

 俺がゆっくりと部屋に入っていくと仏像たち、8つの眼球から向けられる視線は俺へと凝視されていた。



 一歩一歩近づいてくる毎にタモンテン以外の仏像たちは先ほどまでの威勢を失い、まるで人間が熊に遭遇したかのように目線を逸らさずゆっくりと後ずさっていた。



 俺は歩きながら周囲を見てこれまでに起こった状況を察した。



(やれやれ、これは酷い……まぁだがな)



 この悲惨な状況を目の当たりにした俺が驚いても居ないのには理由があった。



 その理由は後で話すとして、取りあえず低レベルではあるが【気配感知】で生命反応を確認してみる。



 ボス部屋などの限られた範囲内ならそれなりに感じ取れるだろう。



(……6人中1人死亡か……4人が虫の息だがまだ生きてる。元気なのが配信者か。いやーー良かったまだ生きてて。簡単に死んでもらっては困る。だが、もう少しこの配信者おもちゃで遊んでみるとするか)



 さて、パーティゴミ共に続いて、仏像こいつらの情報も一応見させてもらうとするか。



 俺は仏像4体に対して一斉に【解析鑑定】を行った。



 あ、そうだ……恐らく情報が長くなりそうだから最低限の情報で良いよAdam。



 *************************************

 承知しました。


 個体名:ジコクテン・ゾウチョウテン・コウモクテン・タモンテン

 種族;護法神

 危険度:S+級


 HP:9000/9000 MP:8999/8999


 詳細情報を【解析鑑定】で看破しました。

 簡易表示します。


 耐性:【基本属性無効】

   :【物理攻撃耐性】

   :【状態異常無効】

   :【特殊属性耐性】

   :【魔神攻撃弱点】

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 ありがとう、Adam。耐性だけ分かれば十分だ。



(やっぱりね)



 俺はステータスを見た瞬間、俺は確信した。このダンジョンの大掛かりなシステムに。



「えーーっと、そこのお前。タモンテンだっけか? このダンジョンのクリア条件だが、道を引き返せばよかったんだろ?」


「……ふぇ?」



 俺の発言にぴよこは呆けた顔をしていた。どうやらしっかり説明しないとこの馬鹿どもは分からないらしい。



「シークレットボスを倒した後、俺は入って来た時の回廊に戻って来た。出口まで戻ろうと思って道を戻ったら、出入り口が無くなっていたんだ。代わりに……ゲートが出来ていたんだよ。この部屋の入り口前に通じる門が。恐らくだがあの生贄の部屋は罠で、そのまま引き返せばお前たちの元に来られて、そのままダンジョンから出られたんだろ? 馬鹿正直に生贄を放り込んだ時点でダンジョンのクリア条件が変更され、クリア難易度が大幅に上昇する。ダンジョンだけ見れば大体B級程度……クリア条件を間違えたらS級ダンジョンへと変わる。そんなシステムなんだろ? まったく、最初っから最後まで……足を引っ張ってくれたものだ」



「そ……そんな……」



 俺の説明にぴよこは腰が抜けたように地面にへたりこんだ。



「貴様の言う通りだ。だが、もうクリア条件は変更された! 我らは貴様らを殺す、ここから出たければ我らを倒せ!!」



 タモンテンはそう言い放つと、俺に向けて雄叫びを挙げた。



 それに感化されたのか周囲の奴らも士気が高まったのか気合いの怒号を挙げる。



「良いよ、殺しな。俺には関係ないから」



 俺はその一言だけを吐き捨て、頭を掻きながらその場に座り込む。



「ふぇえ!? ちょちょちょっと!! 助けてよ!!」



 ぴよこの言葉に俺は鋭い視線を向けた。



「それが……人様にものを頼む言葉か?」


「……へっ?」


「おい、良い加減にしろよ? インフルエンサーだが何だが知らねぇが初対面のくせに調子に乗りやがって。権力と金と承認欲求に勝てず、長いものに巻かれ、舐め腐った者を平気で見捨てて切り落とす。そこまで好き放題しておいて、死にそうになった今度は助けてくださいだ? お前ら、今までの自分たちの行いを振り返ってみろ? 俺は、どこまで、お前らのわがままに付き合えば良い?」


「……!!」



 俺の言葉があまりにも衝撃だったのかぴよこは力が抜けたように肩を落とす。



 そして、数分身体が小刻みに揺れた後、その場で俺に向けて土下座をし始めた。



「ど、どうかお願いします!! い、今まで行った圭太様へのご無礼な行いに関しては本当に申し訳ありませんでした!! お願いします!! なんでもしますからぁ!! 圭太様の言いなりにでも犬でも肉便器でもなんにでもなりますからぁああ!! お願いします……どうかたすけてぇ……」



 さてと……こんなものか、少々怖がらせようと思ったが思った以上に効いたみたいだな。



 これなら、俺の為に動く良い道具になりそうだ。



「……今、何でもするって言ったよね?」



 俺は立ち上がり、ぴよこの元へと向かって行くとぴよこのやわらかい頬を片手で掴み、無理やり顔を上げて俺と目を合わさせた。



「あの葛嶋ゴミとは違って俺は心優しいからお前みたいなやつでも助けてやる……が、条件がある」



 俺はぴよこに条件を耳打ちすると、ぴよこは目を丸くした。



「け、圭太様……た、たったそれだけで良いのですか?」


「できるのか? できないのか?」


「や、やりましゅ!! ぴよこできましゅ!!」


「ならすぐやれ、あと、配信は俺に付けたカメラを使って映せ」


「はいぃ!!」



 ぴよこは部屋の隅へ逃げるように移動し、鞄からスマホを取り出して何か作業を始める。



 どうやら、しっかり動く気はあるらしい。



 さて、ぴよこの準備の間にそろそろ邪魔なエキストラを排除するか。



「悪いがお前ら、今からやるに映ると邪魔だから先に倒させてもらうぜ」


「人間風情が……我ら鬼神を舐めるなぁああああああああ!!!!」


 *************************************

 ボスが激昂状態に移行しました。


 一部ステータスが上昇します。

 *************************************


 ここまでの行いは全て配信されている。



 ここだけ見れば俺が悪者に見えてもおかしくも無い。



 ましてや炎上物だ……だが、これも計算のうち。



 こっちには影響力インフルエンサーがある。



 必ず逆転し、この配信をめちゃくちゃにしてやる。



「さて、始めるか」



 こうして、ダンジョンボス”四天王”達と俺の戦闘が今始まった。

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