第17話 チャラ男パーティ壊滅

 一方で葛嶋のパーティたちは順調にダンジョン攻略を進めていた。



 自身のギルドを広めるべく、ぴよこの配信を如何に盛り上げようと戦いの中で簡単な企画を行ったりしていた。



 しかし、それはその場の悪ふざけの様に世界へ発信などされてはいない。



 葛嶋たちの移動途中のつまらないトークをよりもぴよこは自身が配信しているカメラの先にくぎ付けとなっていた。



(な……何なのこの男……このダンジョンの裏ボスをたった一人で攻略してしまうなんて……)



 ぴよこが配信画面の横に目を逸らすと、今までに見たことがないほどライブの同時接続者数が指数関数的に跳ね上がっているのが見えた。



 これほどまで大バズりしたのはぴよこの配信人生の中で一度もない。



 ここまで配信が大伸びしているところ見れば人は恐怖を抱くことがあるだろう。



 しかし、ぴよこは逆だった。



 大バズりによって頭から快楽物質があふれ出で、身体が火照り、額から一粒の汗が流れる。



 今までの配信人生で視聴者たちが求めていたものを提供できる人間が現れたことにぷいよの身体はぞくぞくと震え、鳥肌が体中を駆けめぐっている。



(つ……遂に見つけた! 最強の逸材ハイパーコンテンツクリエイター♡♡♡)



 ぴよこの息が荒くなり、口から涎が漏れ出る。



 もっと彼を見ていたい、もっと彼に動画に出て欲しい、もっと彼の事を知りたい……そんな彼への沢山の想いが配信画面の前で広がっていく。



 ぴよこは今まさに、自分が推しを見つけた視聴者になった心地よい気分であった。



 しかし、そんな気分はすぐにぶち壊される。



「おい、火喰鳥。てめぇ何よそ見してんだ。やる気あんのか?」



 前に居た葛嶋がサングラスをずらし、鋭い眼つきでぴよこを睨んでいた。



「ごめんなさい、ちょっと機材トラブルもあったから不安で」



「ふん! まぁ良い。それより、そろそろこのダンジョンのボス部屋に到着だ。しっかりカメラまわしとけよ?」



 正直、ぴよこはこれ以上こちら視点のカメラを回す必要も回す気もなかったが、後々葛嶋に何か言われたり、自分の配信活動に支障が起きたりするのが嫌なので渋々ではあるがカメラの視点を変えた。



(あの人の視点……もっと見てたかったのに……)



 ぴよこはカメラ外でふくれっ面になりながらも本来の配信を再開させた。




 ☆☆☆☆☆




 そして数分後、葛嶋パーティたちは巨大な赤い扉の前に差し掛かった。



 天井一杯までそびえ立った木製の扉の隙間からは異様なまでにドス黒いオーラが漏れ出ていた。



 このオーラは二多恵の持つ感知系スキルを使用せずとも感じられるものである。



「みんな、気を付けろ。この先は……これまでとは違う」



 二多恵の言葉に葛嶋以外のメンバーが生唾を飲み込んだ。



「なーーにビビってんだてめーーら。ここには俺様も居る。怖がる必要はない、しっかり俺がお前らの事をからよぉ」



 葛嶋の言葉に少し苛立ちを感じた鈴木だったが、ここはぐっと言葉を飲み込んで盾と剣を構える。



「……みんな、準備は良いか?」



 前衛の鈴木が仲間にアイコンタクトを送る。



 妃兎絵、二多恵、そして美香がうなずくと鈴木は盾を使って扉を押し始めた。



 扉は巨大ながらも鈴木の怪力によってゆっくりと鈍音を立てながら開いてい行く。



 そして人が1人入れる隙間が空いた時、鈴木が部屋へと侵入し、それに続いてメンバーたちがぞろぞろと部屋の中へと入る。



 しかし、入った部屋は真っ暗で周囲の様子が一切見えなかった。



「く、暗いな……二多恵、何か見えるか?」



「……だめだ。何も見えない」



 二多恵が持つスキル【暗視】を使用してもこの部屋の全貌を見通すことが出来ない。



 そして、最後にぴよこが部屋に入った瞬間に突然、出入り口の扉が勝手に閉まった。



「へぇ!? ちょ!? 勝手に扉が閉まったんですけど!?」


「おい!? どうして扉を閉めた!?」


「だから私じゃなくて勝手に閉まったの!!」


「皆さん! 少し落ち着ていください!」



 突然の出来事と闇の中で軽いパニックになるパーティメンバーだったが次の瞬間、部屋の壁全体に赤い炎が一斉に燃え上がり、部屋全体を照らした。



 薄暗い部屋に赤い火で照らされ、姿を現したのは部屋三方面にそびえ立つ巨大な仏像。



 それらは憤怒の表情で葛嶋パーティたちを睨んで見下ろしていた。



「なっ!? 何だこの巨大な像は!?」



「ま、まさかこいつらがダンジョンボスってことなの!?」



 鈴木と妃兎絵は思わず、呆けた様に口を開けてその像たちを見上げる。



 仏像たちは困惑している探索者達をあざ笑っているかのようにこちらを見続けたまま動かないでいると、部屋中に男性の野太い声が響き渡った。



「よく来た、人間」



 その言葉と共にパーティの背後……出入り口の扉の前に巨大な何かが落ちてきた。



「出口が塞がれた!?」



 それはもう1体の仏像、しかしその仏像は正面に居た3体の仏像と明らかに殺気が違う。



 仏像とは思えぬほどぬるりと動くその仏像は着地の衝撃を膝の屈伸で吸収し、ゆっくりと立ち上がり顔を見せた。



「我はタモンテン、このダンジョンの主、四天王を仕切る者成り。他の四天王……左はジコクテン、前はゾウチョウテン、右はコウモクテンである。貴様ら人間に問う。なぜ、貴様らは生贄を捧げた?」



 タモンテンと名乗るその仏像は探索者達にそう投げかけるが誰も答えようとはしない。



 しかし、1人……前に出て来て言葉を発したやつが居た。



「ちょうど良い生贄が居たそれだけだ」



 そう言い放ったのは勿論葛嶋である。



 葛嶋の言葉にタモンテンは静かにうなずくと、無表情の顔が鬼の形相へと変わる。



「我は貴様らの行いを全て見ていたぞ!! 同族を軽々しく見捨てる貴様らの様な愚かな人間は、我が四天王が成敗してくれる!! 構えぇええええええええええええええええええええええい!!!!」



 タモクテンの荒々しい叫び声と共に一斉に周囲の仏像たちが動き出し、武器を構えて臨戦態勢を取り始める。



「まずい!! 妃兎絵!! 二多恵!! 構え……」



 鈴木が後ろを振り向き、パーティに指示をしようとしたその時だった。



 鈴木の横から巨大な刃が薙ぎ払われ、、瞬く間に鈴木の首が吹き飛んだ。



「……え」



 自分の身に何が起こったのか分からぬまま、鈴木の頭部が宙を舞い、赤黒い血をまき散らしながら鈍い音と共に地面に身体だけが倒れた。



 鈴木の頭部が鈍い音を立てて地面に落ちた時、パーティたちは初めて鈴木が絶命したことを認識したのだった。



「きゃあああああああああああああ!!!!!!!! 鈴木さぁああああああああん!?」



 一瞬の出来事で、鈴木が死んだことにより妃兎絵が絶叫し、気が錯乱したのか泡を吹いて気を失ってしまった。



「鈴木!? 姉さん!? くそっ……!」



 二多恵は正気を保ち、いち早く動き始めた。



 瞬時に壁の方へと向かい、素早い壁走りで鈴木を殺したジコクテンへと向けて短剣の刃を刺しに行く。



 しかし、ジコクテンすぐに二多恵の動きを読み切り、巨大な盾で二多恵の攻撃を防いだ。



「なっ!?」



 素早さに自信のあった二多恵の攻撃が見事に防がれ、宙を舞い無防備となったところにゾウチョウテンの投げた巨大な三叉槍が二多恵の身体を貫く。



 二多恵の身体は壁にめり込み張り付きの状態となり、身動きが取れなくなった。



 意識が朦朧とする中で、必死に葛嶋に言葉を駆ける。



「たす……け……ろ……」



 しかし、葛嶋は二多恵の言葉を無視して、コウモクテンと戦い続ける。



 そして、少しだけ二多恵を見た時、にやりと口角を挙げたように見えた。



(この男……最初から……助ける気なんて……)



 朦朧とする意識の中、二多恵は葛嶋を最後まで睨んだまま意識を失った。



 一方で仲間が次々と倒れていく様子にぴよこは何もできずにいた。



 これまでの配信人生の中で一番訪れたことのない死線……ぴよこの足がガタガタと震え、今にも逃げ出したかったが身体が動かない。



 目から涙が溢れ、頭の中が真っ白になる。



(うそうそうそうそうそうそやだやだやだやだやだやだやだやだ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないお願い許して許してお願い許して許してお願い許して許してお願い許して許して)



「おいぴよこ!! てめぇ死にたくねぇなら俺に強化魔法バフくらいかけやがれ!!!!!!!」



 戦意喪失しているぴよこに葛嶋の怒号は届かない。



「くそっ! どいつもこいつも使えねぇゴミ共が!? ぐあああああああああああああああああ!!」



 よそ見をしていた瞬間にコウモクテンの魔法による衝撃波によって葛嶋は壁へと吹き飛ばされる。



 壁にめり込み、身動きが取れなくなった葛嶋に向けてコウモクテンが更に魔法を詠唱する。



「ぬぅうううううううう!!!!」



 コウモクテンの詠唱した魔法によって炎によって作られた龍の巨大な頭が葛嶋を飲み込もうと襲い掛かってくる。



 だが、葛嶋はニヒルに笑みを浮かべると右手を美香に向けた。



「美香ぁ!!!! 貴様は俺の役に立てるよなぁ!?」



 葛嶋の右手が光りだすと美香の身体が葛嶋の右手に吸い付き、美香の身体を盾に魔法を防いぐ。



「……く、葛嶋様……どうして……?」



 黒焦げになった美香を投げ捨て、葛嶋は壁から身体を引きはがす。



「お前だけは良かったぞ。使い捨てのゴミとしてはな……さてと、俺は逃げ……」



「どこへ行く?」



 しかし、逃げようとした葛嶋の前に瞬時に立ちはだかったのは後ろで見ていたタモンテンであった。



「仲間を置いて逃げようとするなど笑止千万」


「く……糞がぁああああああああああああああああああ!!!! 喰らえっ! 【核熱ノ殴打ニュークリアインパクト】!!!!」



 葛嶋は右手を大きく振りかぶり、タモンテンに向けて拳を振るうと触れた瞬間広範囲の爆発が起こる。



 砂埃の中で葛嶋は手ごたえありだとにやける。しかし、すぐに葛嶋の顔は驚きの表情へと変わった。



 葛嶋の攻撃を受けたタモンテンの腕には傷が一つも付いていなかったのである。



「な、なんだとぉ!?」


「鉄拳制裁……【神ノ拳ゴッドハンド】!!」



 自身の攻撃が通用せず困惑している刹那、タモンテンの巨大な左腕の拳が葛嶋に叩き込まれ、葛嶋の身体は軽々と地面にめり込んだ。



「あ……あぁ……」



 葛嶋も四天王に敗れ、事実上のパーティ壊滅に追い込まれ取り残されたぴよこ。



 ぴよこは腰を抜かしてパニックになり、逃げ場のないこの部屋の隅へとただ寄ることしかできなかった。



 にじり寄ってくる四天王たち。ぴよこは整えたメイクを涙と鼻水でぐじゅぐじゅに死ながら、土下座で命乞いをする。



「ごめんなさぁああああい!! い、命だけは……ぴよこの命だけは!」



 しかし、タモンテンは問答無用だと言わんばかりに葛嶋を崩したあの左腕に力を込め始める。



「うぅ……うぅっ!!」



 ぴよこは失禁し、死を覚悟した。



 タモンテンの拳がぴよこに向けて振り下ろされる。



 その時。タモンテンの動きが止また。



「この……異様な妖気は……」



 四天王たちが顔を向けていたのは出入りの扉。数秒の静寂の後、目線の先にある扉がひとりでにゆっくりと開かれる。



「ここが、本当のボス部屋か」



 声に気がついたぴよこが涙目で顔を上げる。



 部屋に入り現れたのは、そう……奈落の底で生き残った小川圭太本人だったのである。

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