第45話 旅館組とダンジョン組、謎の少女

「兄さん! 起きて」

 次の日の朝にサラがギルドの部屋にやって来て俺は起こされた。


 こんな勝手に部屋に入れるものなんだろうか?

 サラが俺の妹だって言うのは誰でも知ってるが……。

 セキュリティは?


 サラはすっかり眠って体力が完全回復している。


 俺は、昨夜のミカとユミとの会話で、ユカの事を考えてあまり眠れなかった。


 とりあえず、あくびしながら着替えて食堂に行く。


 食堂はいつもより人が少なく静かだった。

 ユカの件でみんなダンジョンに行ってるんだろう。


 おばちゃんがくれた食事は、いつもより心なしか量も多く見た目も綺麗だった。

 暇なんだろうか?

「私、全部は食べれないかも」

 食事がまだだったサラも一緒に食べるが、料理の量に戸惑っている。


「ロウちゃん、サラちゃん」

 イクミとタクミがやって来る。


「イクミは食べないのか?」

 タクミだけが料理を持って来て、イクミはヨーグルトと飲み物だけだった。


「うん。今日はアカネちゃん家の旅館に軟禁されてる、青髪の冒険者に会いに行こうと思って」


 青髪ってだけで、青髪のプリンス間違われてるブルーさんの事だ。

 いや、みんな青髪のプリンスはイケメンだから別人だって言ってるんだが、なんか軟禁されてる。


「ん? それと朝食となんの関係があるんだ?」

「一流旅館の香夜館だよ! アカネちゃんとお昼に会いに行く事になったから、食事も出るんだ〜。お腹空かせてかないと〜」

 食事を思い浮かべてイクミがうっとり答える。


「ふーん。で、タクミはなんで食べてるんだ?」

 イクミが行くならタクミも一緒に旅館に行く。

 当たり前過ぎて、タクミの前の大盛りの朝食が不思議だった。


「僕はロウくんとサラちゃんとダンジョンに行くよ」

「えっ!?」

 タクミの言葉に、俺とサラは同時に声を上げた。


 タクミがイクミと別行動を取るなんて……。

 今迄あっただろうか?


「いや、ダンジョンに行くなんて俺言ったっけ?」

「青髪のプリンスを探すにしても、ロウくんなら何も考えずにダンジョンに行くだろうと思って」

 俺がいつも何も考えてないようにタクミが言う。

 合ってる気がするが。


 ただ、今回が違う。

「ちゃんと計画はある」

「え?」

 俺が言うと、タクミとサラも驚いてる。


「ミカとユミに聞いたんだ。3年前の事故の場所が“闇”のモンスターの組織に繋がってるかもしれないって」


「そっか……」

 タクミは納得したように言う。

 サラはミカとユミの名が出た事で顔を曇らせた。


『モンスターのユカちゃんを倒して欲しくなくて! 今まで一緒に居たユカちゃんも、私には大切な家族なんです』


 俺はモンスターのユカも傷付けないと、ミカとユミと約束した。

 でも、サラは大聖女として、モンスターのユカの事はどう思ってるんだろうか?

 後でちゃんと聞かなきゃいけないな。


 もしかしたら、サラと対立する事になるかも知れない……。


「別にタクミくんは来なくていいわよ。イクミちゃんといれば良いのよ」

 サラが言う。

「なんでそんなこと言うんだよ」

 とタクミが抗議する。


「ユカに……、モンスターだったユカに事故があった場所は聞いてるけど、危ない場所じゃないから、私と兄さんだけでも大丈夫よ」

 暗い表情のままサラが続ける。

 そうか、ユカとそう言う話もしてたのか。

 サラの弟子だったユカとは、こっちも絆が深かった事を改めて実感する。


 サラは俺がミカとユミに聞く前から、事故の場所に行くつもりだったんだろう。


 ——ただ、ユカはサラを殺す事に迷いはなかった。

 それが“闇”の組織の目的だからだろうか?

 ミカとユミと家族の絆を結んでも、アイツがモンスターな事は変わらない——。


「いや、サブローくんと兄さん達にサラちゃんを頼まれたし、今回はついて行くよ」

 タクミが強い口調で言う。

 イクミが一瞬不満そうな顔をしてから笑顔で言う。

「サラちゃんのお兄さん達も心配してるんだし、今回だけは特別にタクミを連れっていってあげてよ」


 サラは鼻で笑う。

「言葉だけで他人任せにするのは心配って言わないのよ」

 不満を隠さずにサラが、兄たちへ辛辣な一言を放った。


「確かに」

 と、イクミが膝を打って納得してる。


 うわー!

 めちゃくちゃ嫌われてるな、サブローくんたち。

 でも、確かに完全に人任せだ。

 俺は尊敬するカッコいい兄たちがサラによってあっさり論破され手震えた。


「僕はちゃんと行動するし」

 と、タクミは気にしてない。

 まあ、タクミは俺たち家族に頼まれて巻き込まれただけだしな。


 俺も人任せにしないでサラを守らないとな!


「で、3年前の事故があった場所ってどこなの?」

「4階の白い花が咲いてる辺りだ。入り組んでるから、俺たちは行ったことないかもな」

「ああ、あの花なら道具の素材になりそうだね」

 タクミが言う。


「もしかして、3年前に新しく出来た場所? ギルドに記録が残ってるから調べてから、アカネちゃんとこに行こうかなー」

 イクミが言う。


 サラはまだ不満そうにしている。


 まあ、こんな感じで、俺、サラ、タクミはダンジョン。

 イクミ、アカネは旅館に行く事になった。


◆◇◆


 ダンジョンの4階に着くと人の気配がない。

 多分、ユカを探してみんなまだ8階にいるんだろう。


 サラは着いてすぐにダンジョンの浄化をする。

 これで弱いモンスターは大人しくなった。


 人の気配とモンスターの気配が消えたダンジョンは静まり返っている。


「アリアドネの糸、シロウくんが使ってよ。僕とサラちゃんは必要なら魔法を使えば見えるから」

「ああ」

 4階に着くとすぐにタクミに渡されてアリアドネの糸を使う。


 アリアドネの糸を使うとそこから光がこぼれ落ちて光の筋を作る。

 使用者の行き先を示す光の筋は、時間が経つと色褪せて消える。


 使用者同士と魔法を使えば、この光の筋は見えるようになる。

 ダンジョンの迷子防止にほとんどの冒険者が使ている。


 やはりアリアドネの糸を使っても他の冒険者の痕跡は見えなかった。


 4階くらいなら危険も少なくアリアドネの糸を使わない冒険者もたくさんいる。

 ただ、今はギルドを上げてユカを捜索しているから、アリアドネの糸を使って捜索範囲が被らないような使い方もするだろう。


 4階には俺たちだけだと考えて良いだろう。


「……人の気配がする」

 サラが言う。


 俺が、人は居ないって結論づけたばっかりなんだが。


「いえ……、人なのかな……」


 人じゃない、何か。


 ダンジョンの風が強くなったような気がする。

 俺とタクミは風の冷たさに身震いした。


 ——!


 視線を感じて見ると、女の子が立っていた。


 俺と同じ歳か少し下くらいだろうか?

 鋭い目つきでこっちを見てる。


「どうしたの」

 タクミが声をかける。


「@%:$#」


 彼女の口から知らない言語が飛び出した。


「が、外国人か」

 世界中か人が集まってくる温泉ダンジョンでは言葉の通じない人も珍しくない。

 旅館に軟禁されてるブルーさんもその一人だし。


 心なしかブルーさんと同じく、ダンジョンの影響で髪の色がオレンジっぽく見える気がする。

 でも、元が金髪ならこれが普通なのか?

 ダンジョンのほのかな光の中では判断がつかなかった。


女の子はそのままダンジョンの奥に行ってしまう。


「か、可愛い子だったね! ロウくん!」

 タクミが興奮気味に言う。

「そうか?」

 キツイ目が苦手だった。

 どこかの誰かを思い起こさせるけど、あのキツイ目は……、サラか!?


 何の気なしに見たサラは、鋭い目で女の子の去った方を見ていた。

 ゾッと背筋に寒気が走ると同時に、やっぱり似てたのはサラだったと思う。


「いや、ロウくんは、なんであんな綺麗で美人の可愛い子にその反応で、男には大喜びするんだよ!」

 なんか誤解を呼ぶような事を言ってないか? タクミ。


「サラ、さっきの子が人じゃない気配の正体か!?」


 俺が聞くとサラは少し考える。


「さっきの子は気になるけど、あの子の気配じゃないわ。もっと奥の方から感じる」


「あの子は普通の良い子だよ。だって可愛いもん」

 タクミはまだ言ってる。

 まあ、イクミも似た事を言ってたから、双子は同じ思考をしてる。


「奥って、事故があった場所かもしれないな」


 人とモンスターが消えて、“闇”の気配がその姿を表した。


 ダンジョンを流れる魔力の風に押されて、俺たちは歩みを進めた。

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