第46話 旅館の三人と、妹の涙
俺、レンスケは、何故かウチのホテルとはライバルのアカネさんの旅館に来ていた。
いつ見ても入り口から歴史を感じて圧倒される。
いや、ウチのホテルだって負けてないけど!
「あ、レンスケ!」
露天風呂近くの休憩所にいると、アカネさんが俺に気づいて声をかける。
後ろには小さな女の子もいる。
アカネさんと同じ歳の、イクミさんなんだが、デカいアカネさんと並んでいるとまるで小学生だ。
アカネさんが俺の側に来るとやっぱりデカい。
俺と1、2センチくらいしか違わない。
ずっと俺の方が背が低かったけど、やっと追いついた。
「レンちゃんが来てくれて良かったけど、まだブルーさんと会うまで時間あるんだよね〜。露天風呂は入っちゃったし、どうしようかな〜」
イクミさんが、椅子に座ってくつろいでる。
外国人のブルーさんと話すから通訳しろって呼び出されたんだっけ。
アカネさんの英語はまだ通訳が出来るほどじゃないし、イクミさんは見るからにアホそうだ。
「あ?」
イクミさんに睨まれた。
「あー、あの青髪のブルーさんは、青髪の冒険者とは無関係ないんだろう?」
俺は誤魔化すように聞く。
「冒険者じゃなくて、青髪のプリンスね」
イクミさんが訂正する。
心底どっちでもいい。
「まあ、囮ってところかな」
「お、おとり!?」
思いがけない言葉に俺は驚く。
椅子に座ったアカネさんも驚いてる。
「“闇”のモンスターがこっちと青髪のプリンの関係を疑ってる以上は、無関係でもブルーさんは青髪のプリンスと間違えられる可能性があるのよ」
「え!」
「私の考えでは“闇”はこっちに来れないと思うけど、サクラさんは“闇”が接触して来た時の為に派手にブルーさんの存在を見せてるんだと思う。それに、青髪のプリンスと間違えられて捕まってる人がいたら、“光”にとっても気になる存在になるから、誘き出す囮になるって事かなー」
「お母さんが……そんな事考えてたの? 昨日も売り上げの計算して笑ってただけだったのに……」
アカネさんが信じられないって顔で言う。
サクラさん、ウチの親父と同じ事してるんだ。
じゃなくて、イクミさんの推理はすごい。
普段はふざけてるけど、冷静で的確に周りを見てる。
「はっやく、ご馳走食べたいなー♪」
すごく、アホっぽいのに!
「……俺の分もご馳走あるよな?」
「レンスケは通訳だし、食べる暇ないでしょう」
アカネさんがにべもなく言う。
た、食べたかった……。
「サラちゃんも青髪のプリンス? だっけ? とブルーさんを間違えてたよね。ソウスケ」
アカネさに言われて思い出す。
「そう言えば、ブルーさんと青髪のプ、プリンス? を間違えて、逆にブルーさんに絡まれてたなぁ」
「うん。みんながカッコいいって言ってたから見てみたかったって言ってた。私も見たいと思ったのよね」
ちょうどユカの事件の前日に、俺とアカネさんが居合わせた。
「ギルドにカッコよくない冒険者のブルーさんがいるのはサラちゃん知ってたみたいだけどね」
イクミさん、カッコよくないってハッキリ言い過ぎて、酷くない?
比較対象がいなくてもカッコ良くはないけどさ。
「そんなに見たかったんだ。サラちゃん」
不思議そうにイクミさんがつぶやく。
「そりゃ、あのシロウ先輩がカッコいいって認めた人だし、俺も見たい!」
「レンスケ、シロウの事好きだよね。私のライバル?」
アカネさんが怖い顔を向けてくる。
お昼まで後、1時間半!
◆◇◆
ダンジョンはいつにない静寂に包まれている。
3年前の事故があった場所はまだ遠い。
「シロウは事故の様子聞いたの?」
タクミの声がダンジョンによく響いた。
「入り組んだ地形で足場も悪い所で、ミカが落下して、ユミが助けに行ったんだ。ユカは上で待機して何かあったら助けを呼びに行く手筈だったらしい」
俺が言うと、サラが頷く
「ユカから聞いていた通りよ」
サラが言うユカは、3年前のこの事故の時にユカの身体を乗っ取ったモンスターだ。
「サラは“ユカ”の事どう思ってるんだ」
俺は聞いてみた。
「3年間弟子だったんだろ? でも、サラちゃんを狙って3年間も騙してたし、複雑だね」
タクミが代わりに答える。
サラは考えている。
「モンスターは、倒すだけよ。私は大聖女だもの」
沈黙の後にサラが言う。
『普段は大事にされて、やらなきゃいけない時に逃げるわけにはいかないの……』
いつかの言葉を思い出す。
大聖女という立場がサラを縛ってる。
でも、大聖女ってなんなんだ。
「……ミカとユミが、モンスターのユカも助けて欲しいって言ったら?」
「え?」
サラが驚いている。
「なんでモンスターを……、ずっと騙されていたのに……」
やっぱりサラには受け入れられないのか。
「ミカとユミにとっては、本当の妹として3年間も過ごしたんだ。モンスターだって本当の家族なんだよ」
俺はミカとユミの様子を思い出しながら言う。
本物の3年前にいなくなったユカと、入れ替わったモンスターの3年過ごしたユカ。
どっちも同じ妹なんだ。
「それにユカも、あの2人の所に帰りたがってた」
「え!?」
サラがもっと驚いて目を見開く。
俺はユカが2人の元に帰りたい為に、俺にトドメを刺すタイミングを逃して、命拾いした事を伝えた。
「うそ……」
サラがつぶやいた横で、
「え!? そんな危険だったの!? ロウくん!?」
タクミもこれ以上ないくらい驚いてる。
静寂に包まれたダンジョンに声が反響する。
「やっぱり、ついって来て良かった……」
タクミが静かにつぶやいた。
俺はサラを見ていた。
沈黙の後で、涙が一筋落ちる。
「ユカが、人間を好きになってくれていて、良かった」
複雑な表情でサラが微笑んだ。
モンスターのユカも傷付けなくて済みそうで、俺も安心する。
しかし、闇の気配はより強く、未知の何かが待ち受けている予感がした。
ダンジョンの風に押されて進むと、小さな光が見えた。
細く伸びた光の筋は俺の持っているアリアドネの糸と同じだった。
「人が居たのか……」
ユカ捜索に大部分の冒険者は8階を探していて、さっきあったオレンジ髪の言葉が通じない外国人の冒険者以外は人がいないと思っていたが……。
サラとタクミも俺の言葉に魔法でアリアドネの糸の光を見えるようにする。
ちょうどモンスターの入れない太陽石がある広場から、その光は始まっている。
アリアドネの糸は、迷子防止に冒険者が自分の居場所を知らせるアイテムだ。
この光の主は、俺たちを誘っている。
汗が背中を伝った。
「行こう」
ちょうど俺たちが向かっている3年前の事故現場に伸びているように見える。
誰が何の目的でやってるのかは分からないが、確かめなくてはいけない。
サラとタクミも真剣な表情で、アリアドネの糸の光が続く先を見つめ、頷く。
その光の先に何が待っているのだろう。
次の更新予定
妹は大聖女ー竜を倒した兄は仲間と温泉ダンジョンで最強を目指して無双する 唯崎りいち @yuisaki_riichi
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