第31話
俺、シロウ、妹のサラ、道具屋の三つ子のミカ、ユミ、ユカ、幼なじみのアカネ。
この6人で素材採取の為にダンジョンに入っていた。
ダンジョンの地下8階は広大な山脈が連なる高山地帯で、山の中にはダンジョンが広がっている。
それは面倒くさい場所だ。
ダンジョンの中にダンジョンが広がってるって?
疑問に思ったものだが、ダンジョンとはそう言うものなのだ。
広大なんだが基本的に同じような風景が続くから飽きる。
俺も2、3の山を攻略して終わっていたと思う。
この場所だけ好んで探索する冒険者も居るが、もう見た目から冒険者って言うより登山家っぽい。
俺たちは近くの山のダンジョンに入る。
入ってすぐに太陽石の広場があり、林檎に似た食べ物がなる木が生えている。
俺は林檎を取って食べた。
「わー! 何食べてるんですか、シロウ先輩!」
「朝、食ってないから」
ミカに言われて答える。
「やっぱり寝坊したのね、兄さん」
サラが呆れる。
「それは、家の道具屋で売るんです! 勝手に食べないで下さい」
まだ採取もしてない素材に所有権を主張するミカ。
「でも、ダンジョンの食べ物は美味しくないですよ?」
ユミが心配そうに俺の顔を見る。
「変な味がして、美味いよ」
「変な味って自分で言ってるやん!」
ミカがツッコミを入れる。
「兄さん……」
そんな俺たちをよそに、ユカは辺りを見回していた。
「どうしたの? ユカ」
アカネが声をかける。
「私とシロウ先輩が採集に行く場所の入り口を探してるんです」
「ユカとシロウが? 2人で?」
アカネが戸惑っているが、俺も初耳だ。
「2箇所で素材を集めたいから、二手に分かれる事にしたんです。説明が遅くなってすみません!
シロウ先輩とユカと、アカネ先輩が来てくれたから、3人でお願いします!」
ユミが慌てて説明する。
依頼主は三つ子だから、俺は従うだけなんだが……。
でも、なんでよりによってユカと!?
いや、回復士だからだろうけど!
サラの視線が痛い。
「やっぱり、アカネ先輩一緒なのね……」
ユカが小さくなにか言った気がした。
「あった!」
直後、ユカが小さく声を上げる。
「ずっと山の上に続く道だね。私も行った事あるかも。変わった素材が取れたよね?」
ユカが発見した道を見ながら、アカネが言う。
俺もアカネと行ったことあるなぁと思い出す。
今回もアカネが来てくれてユカと2人っきりにならずにすんだ。
本当に良かった……!
サラは、ミカとユミと、この広場や近くで素材集めをする。
強いモンスターも出る場所だが、サラもいるし、この広場は太陽石があるからモンスターには襲われない。
こっちは安全だろう。
「アカネ先輩。『恋人の鈴』持っていって下さい! こっちはサラ先輩が持って下さい」
『恋人の鈴』とは、ダンジョン内で別々に行動してもお互いのいる場所を鈴が共鳴して教えてくれるアイテムだ。
「危険が有れば、鈴を壊せば持っている人同士で伝わります。私達が持つと採集に夢中で気付けないかもしれないので」
ユミが言うとミカも頷く。
ミカが素材を金額に換算して夢中に採取してる様子が思い浮かぶなぁ。
『恋人の鈴』はサラとアカネが持つのが良いだろう。
そして俺は、ダンジョンで迷わないために道しるべになる『アリアドネの糸』を使った。
腰にかけた道具袋から、『アリアドネの糸』の細い光の筋が落ちた。
ミカも同じように『アリアドネの糸』を使う。
二重の備えがあればいざという時には、お互いの場所にすぐに駆けつけられる。
俺、アカネ、ユカは、ユカの見つけた道を進むとダンジョンを抜けて、外に出た。
山の中腹で茶色く剥き出しの山肌が起伏のある複雑な迷宮を作っていた。
ちょうど迷宮の真ん中辺りの高い場合に洞穴がある。
「あの洞穴から上に行った所に変わった素材があるんだよね? ユカ?」
「そうです。アカネ先輩」
前に来た時は、サラとイクミとタクミが一緒だったな。
高校生の頃は、ほぼこの5人でダンジョンに潜ってた。
低い谷のような道もあれば、細い崖のような道もあって割と命懸けだ。
イクミがはしゃいで何度も一番高い場所から突き落とされたっけ。
よく死ななかったなぁ、俺。
「ユカはここまで来た事があるのか?」
「はい、道具屋の大人に混じって一度だけ行きました」
道具屋が店を上げてやる資材採取ならかなり大規模だろう。
大人数に守られて、ユカも安全に行って来れたんじゃないか?
俺とアカネにとっては今はもう、[[そう危険な道じゃないけど、ユカには慣れない場所だ。
慎重に進もうと、アカネと顔を見合わせ頷き合う。
と、言ってる側からモンスターがやってくる。
俺たちが立っている場所よりも、高くなった場所から数匹のモンスターが俺を目掛けて飛びついてくる。
そう言えば、ここでは迷宮の上や下からモンスターが襲って来るんだった。
すっかり油断してた俺は剣すら構えていなかった。
降ってくるモンスターを避けるために身体を捻りながら一歩下がって動きのままに剣を抜くと、そのまま全部のモンスターを切る。
息絶えたモンスターが地面に落ちた。
あ、危なかった!
ユカの方にモンスターが行ってたら守れなかった!
「シロウ、さすが!」
アカネが言い、
「凄いです、シロウ先輩!」
ユカも言う。
良かった、油断してた事、バレてない。
その後も、上や下、左右から襲って来るモンスターを倒しながら進む。
アカネもやって来るモンスターをほぼ一撃で倒すから頼もしい。
一人暮らしの女子大生やりながら鉄パイプの素振りをかかさなかっただけある。
この威力でモンスターを倒せる女子が、都会で鉄パイプを握ってるって想像すると怖いな。
アカネはたまにバランスを崩してモンスターの攻撃を喰らっていた。
すかさずユカが回復魔法をかける。
ユカは、大聖女のサラに劣るのは仕方ないけど、なかなかに腕のいい回復士だった。
アカネの回復に適切な回復量の魔法を素早く使っている。
サラは魔力量も桁違いに多いし、そう言うところは雑だ。
「シロウ、また避けたの?」
「避けなきゃダメだろ」
アカネが不満そうだ。
「なまったって言ってるけど、シロウ、全然隙がないよ。モンスターには」
なんか余計な一言が入ってたけど、褒められたんだよな?
『じゃあ、あんな隙だらけじゃダメじゃない!』
ってアカネに怒られたのが昨日の夜なのに、随分成長したなぁ。
「本当に、シロウ先輩は、隙がないです」
昨日、見事に俺の隙をついたユカニが言う。
隙をついて、キスした━━。
そんな事を考えて隙だらけだった俺にモンスターが向かって来る。
なんとか交わして倒す。
「油断したでしょ! シロウ」
と、今度はしっかりバレてた。
洞穴の少し手前の高台に着くと、目の前に同じような高台があった。
「レンスケ!」
高台にいる人影が手を振っている。
アカネの幼なじみで、サラのクラスメイトのレンスケが仲間と一緒に手を振ってる。
「レンスケも昨日、久しぶりに仲間とダンジョンに行くって言ってたけど、8階だったんだね」
俺はアカネが昨日、レンスケから聞いたと言うのがなんとなく気になったが、
「あっちの高台にいるって事は、俺たちの行く洞穴とは逆方向だな」
「レンスケなら、居ても居なくても一緒だよ」
誰にでも気さくで優しいアカネが、レンスケにだけ辛辣だ。
特別な絆があるみたいで、俺はそれも気になってた。
アカネが言うには、家同士がライバルで気付いたらこんな関係だったらしいが。
突然ユカがよろめいた。
俺は支えようと手を伸ばす。
届かないと思った時、ユカが後ろから俺の方に押し出される。
手を掴んでユカをしっかり支える。
ユカが高台から落ちる事はもうないが、ズザアアアアアァァァッとアカネが崖を滑り落ちていく。
ズドン。
音の先にアカネが見えた。
高台の真下の深い窪地に落ちたんだ。
「ア、アカネ先輩……」
ユカが小さな声でつぶやいて、震えている。
しばらく目を凝らすとアカネは上の俺たちを見て手を振った。
実はここは、イクミが俺を突き落としていた場所だ。
アカネも巻き込まれて何度か落ちている。
こんな時にイクミの暴走が役立つとは。
「ユカ、大丈夫だ。アカネはあの場所は慣れてるから近道を知ってる。洞穴のすぐそばに出て来るさ」
元気付けようと、優しく言ってみたんだが、ユカの震えは治らない。
ユカの小さな身体を抱きしめていた事に俺は気付く。
助ける為とは言え、いいのか?
それに、震えてるユカを突き放すようで離れづらい。
三年前に三つ子も似たような事故にあった事あるって言ってたな。
それをきっかけにユカは回復士を目指すようになったって。
トラウマを思い出してしまったんだろう。
ギュッ。
俺はユカの手を握って歩き出す。
「アカネが出る場所までこうして行こう」
恥ずかしいが仕方ない。
「はい」
小さな声で言ったユカは微かに微笑んでいた。
とっても可愛いと思う。
高台から降りて、大きな空き地に着くと、後は洞穴へ向かって急な坂を登るだけだ。
モンスターもここまでにオレとアカネで相当な数を倒してるから出てこないようだ。
ユカの震えは収まっていた。
俺は振り返ってユカに言う。
「もう、大丈夫だな」
「はい」
俺はユカの手を離す。
名残惜しいような気がした。
ユカがに背を向けて洞穴の方を見上げると、まだアカネは来ていない。
もうすぐ来るだろうから急がないと。
「シロウ先輩、いつも助けていただいてありがとうございます」
真面目なユカが改まって言う。
「何かお礼をしないと……」
「別に礼なんて━━」
俺はユカを振り返る。
━━!
腹に衝撃が走った。
ユカが手に持った何かを俺の腹に突き立てた。
「ナイフなんかいかがです? シロウ先輩」
ユカが俺の腹を蹴り上げながら、ナイフを抜く。
おれは血を吹き出しながら、後に倒れた。
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