第19話
6階は5階に引き続いての人工的な石畳が目立つダンジョンだった。
しかし、石畳は同じでも見た目はかなり異なっていて、研究者によると全く違う作りで全く違う文明のモノのようだと言う。
神殿の入り口のような場所があったり、人が作った遺跡の様でどこか温かみを感じる5階と違って、6階は無機質さを強く感じる。
シュッ!
俺の剣がモンスターを切り裂いた。
6階に着いて何匹目だろうか?
すばっしっこい盗賊のイクミが先の様子を見てポールさんに報告する。
ポールさんが必要だと思ったモンスターを俺とアカネで倒し、ポールさんとサラとタクミが必要な素材を集める。
この連携で進んでいるが、素材の選別が丁寧で時間がかかっているから、俺とアカネの出番はあまりない。
素材集めを手伝おうとも思ったが、タクミの手つきの丁寧さを見ると、俺にはちょっと無理だなと、アカネと一緒に遠慮する。
イクミはちょこまかと遠くまで見に行ってはポールさんに報告しているからかなり忙しそうだ。
モンスターの生息域もメモしながらやっているらしい。
たまに俺たちの出番が回って来ても、この階のモンスターなら俺とアカネは全種一撃で倒せるから暇さは変わらない。
けれど、俺は自分の剣の切れが鈍っている事に気づいた。
一年もサボっていたんだから覚悟はしていたが、アカネと比べてしまうと歴然の差があった。
元々の実力の差は俺の方が上だから、今でも俺の剣の腕の方が上なんだが、俺とは別のモンスターを切るアカネの剣のスピードがすぐそこに迫っていて驚く。
アカネだって大学に行っている間は、剣なんて持ってないはずだが……。
「んー。東京でも素振りとか、剣の鍛錬はしてたよ」
なんともない事のようにアカネが言う。
電車のホームで会った時のアカネはどこにでも居る普通の綺麗な女子大生に見えたのだが、素振りなんてやってたのか!
「剣は流石に怪しくて持ってけないから鉄パイプだけど」
鉄パイプを振ってる女子大生も怪しいが。
目の前でタクミとサラがしゃがんで素材を集めているのに、雑談しているのはなんとなく罪悪感がある。
「そう言えば、レアモンスターってポールさんが探してるモンスターは種類が決まっているんですか?」
俺は昨日の5階の神殿入り口にいた強敵モンスターを思い出した。
その階層のレベルから大きく外れるモンスターを強敵モンスターと呼んでいて、その階層に通常はいないレアモンスターも強ければ、強敵モンスターと呼ばれる。
だから、昨日の魔獣はレアモンスターでもあるんだが、ポールさんは興味を示さず全然違う場所で採集をしていた。
「あのモンスターは別のダンジョンにはよくいるモンスターなのですよ」
ポールさんが教えてくれる。
「2、3箇所のダンジョンで見かけて、それぞれの場所でレベルが違っていて、こちらに高レベルで現れたのはダンジョンのつながりを調べる上では興味深いんですが、生態についてはよく分かっているモンスターなので、僕の今回の調査からは除外しました」
「他のダンジョンにもいないレアモンスターが1番ランクが良いんですが、ダンジョンの繋がりを知れるのでどんなレアモンスターでもランクに応じて報酬は出しますよ」
要するに、普段見かけないモンスターならなんでも良いと。
他のダンジョンにいないレアモンスターの事は知らないけど、この辺のモンスターの種類は良く知っているから、レアモンスターが出たらすぐ分かるだろう。
と言う事で、俺はレアモンスターを探しながらの雑談と言う大義名分を手に入れた。
「さっき言ってた『モンスターの粉』はどんなモンスターの物なんですか?」
アカネが言う。
「世界中で見られるそれほど珍しいモンスターではないんですが、どのだんダンジョンでもレアモンスターとして現れる、人間の身体を入れ替えてしまう『レアモンスターの粉』です。
「えっ!?」
黙々と作業していたサラが驚く。
聞いていたのか。
「身体を交換されてしまうレアモンスター、そんなのが居るんですか?」
俺も初耳のモンスターだ。
「まあ、有名だよ、シロウ」
タクミが言う。
「うん、私も聞いたことあるなぁ。ずいぶん昔にウチのダンジョンにも出たって」
アカネも知ってるのか。
「!」
音もなくイクミが立っていた。
コレだから盗賊職は怖い!
「え?イクミも知ってるのか?」
「うん」
いつからいたのか、話を聞いていたらしいイクミも知ってるらしい。
俺ってもしかして……。
「シロウって実戦以外はダメだよね」
イクミが言う。
「うっ」
気にしてる所を的確に突いてくる。
普段はおちゃらけているがイクミの侮れない所だ。
……さすが盗賊職というべきか。
「ねぇ?レアモンスターが現れて、シロウが入れ替えられたらどうする?例えば私とか?」
イクミがそんな事を聞く。
「俺とならタクミだろ?」
「いやいや!こう言うのは男女が入れ替わってこその醍醐味でしょうが!!」
「醍醐味って、そう言うことじゃ無いだろう。でも、ならアカネがいいな」
深く考えずに言ったのだが、完全にギルドでの胸がデカい発言を引きずっての答えだった。
気付いた時には、イクミがからかいの目を向けて来る。
それは良いとして、サラの無言の背中が怖い……。
「じゃあ、シロウ、レアモンスター見つけて入れ替わって見ようね」
などと無邪気にアカネが言っているが、良いのか?
アカネと入れ替わるって、つまりその……、この話は広げて行きたいんだが、今はダメだ、とサラの背中を見ながら俺は思う。
「そ、そんな事より、どうしたんだ、イクミ。報告は?」
俺はあからさまに話を逸らす。
「あ、そうだ!居たよ。レアモンスター」
「な、なんで早く言わないんだ!!」
俺が言うと、ポールさんも驚いてるようだ。
「そんなにランクが高くない奴だから、そっちの話の方が面白そうだったんだよぉ」
「このダンジョンの10階にもいる奴だから全然珍しくないし」
10階はこのダンジョンで1番最近解放された場所だ。
1年前の俺もよく行っていたが、探索はまだ進んでいなかった。
通常のモンスターと言えども苦戦する事もあった場所だ。
「でも、10階の奴より相当強そうだったよ」
何故か、ニッコリと笑って言うイクミ。
「ま、待ってよ、イクミ。10階の通常モンスターより強いって、大変じゃない!!笑ってる場合!?」
アカネが言う。
アカネも10階に一緒に行って、モンスターの強さを身をもって知っている。
強いならくだらない話に混じってないで、早く報告して欲しかったな。
いや、くだらない話にしたのはイクミか!
「だってさ!もう、笑うしかなくて!ワーウルフなんだもん!あはは」
「なっ!」
ワーウルフと言う言葉に俺たちは全員絶句した。
それは、10階で1番の強敵かも知れないモンスターだった。
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