第5話

最寄駅からバスに乗り温泉地で降りて街の中心地へ行くアカネと別れた。

温泉街の中心地から少し離れた場所で食堂をやっている家に着くとちょうどお昼時で繁盛しているようだった。

住居兼店舗の住居部分の玄関に行くために、店舗に前を通り脇を通り抜けて裏に回った。

玄関には靴がないのでサラも家にいない事がわかり、顔を合わせずにすんでホッとした。

直ぐに顔を合わせなくてはいけない事は分かっているが先延ばしして、できる事なら会いたくはなかった。

情けないが、親に帰った事を報告したらダンジョンギルドに行こうと思う。

稼ぎたいからと言ってギルドの詰所に夏休み中いても仕事がありすぎるくらいだし大丈夫だろう。


あの時、サラに助けられ逃げ帰って来てからダンジョンを避けていた。

もう戻ってこなくてもいいと思ったが、俺の居場所はダンジョンしか無いんだ。


自室で干渉に浸っているとにわかに食堂が騒がしくなる。

向かうとダンジョンのギルドで管理をしているマツキさんと、さっき別れたばかりのアカネがいた。


ダンジョンの入り口には俺が泊まるつもりもダンジョンギルドと管理組合の建物があり数名の管理人が常駐してトラブルの対処にあたっていた。

たまにギルドの受付もしているのがマツキさんで、俺もアカネもお世話になっていた。


「どうかしたんですか」

俺が声をかけると

「マツキさんが急いでて何かあったのか声をかけたの。シロウの所に行くって言うからついて来たけど、事情は私も聞いてないの」

アカネが教えてくれる。

「シロウくんが帰っていたなら安心だ」

あからさまに安心したようにマツキさんが言う。

母さんが厨房から出て来る。

「あら、帰ってたのシロウ」

母が来て事情を話してくれるマツキさん。

妹がダンジョンないで迷子の観光客を追って行方不明になったと言うのだ。

「え、サラちゃんが!」

そうアカネが言う。

「管理組合で探しているんだが、今日は他にもトラブルが多くて動ける人数が少ないんだ。サラちゃんなら大丈夫だとは思うんだが、君の弟のゴロウくんが同級生たちと探しに行ってね」

「ゴロウ達が?」

ゴロウは俺とサラの末の弟で中学三年生だ。

シロウとゴロウというなの通り実が他に兄が3人いる。

中学生にもなればダンジョンなんて日常的に潜っているしなんの心配もないだろうと思うけど……。

そんな事を口にすると、

「それは、シロウくんだからだよ」

とマツキさんが呆れた様にいう。

「温泉街最強のシロウくんと次代の大聖女サラちゃんが一緒のパーティーを組んでるんだ。難易度の高い依頼をこなして仲間もどんどん強くなって君たちの世代が異常に強かっただけだよ」

そうだったのか?

「え?そうなの?」

とアカネも驚いている。

「中学生は正式な会員じゃ無いから正確じゃないけどギルドの認定レベルで5から6が普通の中学生のレベルだよ。君たちは15くらいはあっただろう?」

確かに15だったが、10もレベルが違うのか。

「私もみんなもシロウについて行って高難易度の依頼を引き受けたり、ケガしたらサラちゃんが完全回復してくれたものね」

とアカネが納得した様に言う。

「正式な冒険者でも15が平均だからね」

とマツキさん。

通りで高校生の俺の所に依頼が来たはずだ。

「ともかくゴロウ君達が3階より先の低階層に迷い込んでいたらモンスターのレベルは10以上のやつもゴロゴロいる。かなりの苦戦しているはずだから急いで探して欲しいんだ」

マツキさんの言葉に母さんが心配そうにしている。

「サラがついているからと安心んしていたのに……」

「サラちゃんもお客様の双子の赤ちゃんを助けようと追って行ったんですよ。赤ちゃんだけで迷ったら万が一の事もありましたから、助かったよ」

とマツキさん。

「じゃあ、俺たちはゴロウを探せばいいんですね」

俺が早速行動しようと言うと、

「いや、赤ちゃんはダンジョン内でなくとも早くお母さんの所に連れて行かないと」

深刻そうなマツキさん。

「何か問題があるんですか?」

「泣く」

「ーーえ?」

「お母さんと離れて不安だろうし、お腹も空くし、オムツも変えないといけない。しかも双子だからね」

双子という言葉に嫌な予感がした。

「た、大変そうですね」

と俺が言うとアカネも大きく頷いている。

「双子なんて、サラも心配ねぇ」

と母さん。

たぶん全員が同じ人物を思い浮かべてる気がする。


どこかで動かずに待つにしても赤ちゃんがじっと待っていてくれるかどうか?

泣き声でモンスターを呼び寄せたら弱いモンスターでも流石のサラも赤ちゃんを守りながら逃げ続けるのは無理かもしれない。

「私、赤ちゃんの世話なら少しした事があるから、まずはサラちゃんの所に行こう」

アカネが言う。

アカネの提案はもっともだと思うが、サラの所に行くと言う事が少しだけ俺を怯ませた。

アカネが俺の様子に気づいたのか怒ったように言う。

「赤ちゃんに何かあったら大変でしょう。お客様だし温泉街の評判を落としても大変よ」

確かにそうだ。

アカネは大きな旅館の娘なだけにこういう所はシビアに見ている。

「急いでサラちゃんにもゴロウ君の捜索に加わって欲しいし」

「……わかった」

俺たちは急いでダンジョンに向かった。


ダンジョンのすぐ近くの管理棟の隣のダンジョンギルドで前回オレンジの竜の巣へ迷い込んだ反省から念入りに道具を準備する。

道具袋が重いのは、ダンジョンが久しぶりのせいなのか持ちすぎたのか。

「流石に多すぎだよ。半分戻して、シロウ」

アカネに言われて、俺は不安だったが、重さで動きが鈍ってもいけない。

半分より少し少ない道具を戻す。

「まだ多過ぎるって!」

アカネが呆れたように言った。

そこにギルドの受付のお姉さんがやって来る。

俺たちが子供の頃は冒険者として頼りになるカッコイイお姉さんだったけど、いまは冒険者憧れの綺麗なお姉さんになってるアヤノさんだ。

ずっとお姉さんだけど、いくつなんだろう?

「ん?」

すかさず優しい笑顔を向けられる。

……怖い。


「これ赤ちゃんのミルクとかオムツと着替えとか最低限必要な物が入っているから持って行って」

とリュックを渡される。

オムツとか嵩張るが軽い物が多いが、ミルクを作るお湯の入った水筒が2人分入って、重い……。

「双子なのよねぇ、アハハ」

やはりアヤノさんも双子という事に含みのある言い方をする。

俺が持っていた道具を半分以上戻している間に、アヤノさんがアカネに話をふる。

「マツキさんがアカネちゃんが、赤ちゃんの世話をした事があるって言ってたけど、本当?使い方分かる?」

と道具の使い方を確認している。

「大学で友達になった子の家に遊びに行ったらお姉さんの赤ちゃんがいてね、お世話させて貰ったんだよ。ミルク作って、オムツも代えたよ。たぶん使い方は大体どのメーカーも同じだと思うからできると思うよ」

アカネが答える。

「そうなのね。うちも姉の子とたまに会うけど使い方までは分からないのよね」

とアヤノさん、いくつなんだろ……。

クルリと首を高速回転したアヤノさんが慈愛に満ちた笑顔で俺を見ている。

怖い。

「じゃあ、気をつけてね。迷子の双子のご両親もギルドで待っているから」

とにかく俺はアカネと一緒にダンジョン内に向かう。


ギルドを出る時に、奥の待合室に見慣れない若い夫婦と小さな子供が2人いるのが見えた。

多分、アヤノさんが言っていた行方不明になっている双子の家族だろう。

子供達がはしゃいでいるからそうは見えないが、両親はとても心配していると思う。

俺はアカネと2人で顔を見合わせて、早く赤ちゃん達を連れ戻す決意をする。

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