第20話『薬師寺さんの宣戦布告』

 日が最も長くなる夏至の日。

 如月きさらぎ祭が週末に迫っていた。


 みやこの相談を受けて以降、直接会って話すことはなかったが──

 LINEは届いていた。


 みやびからは「毎日一緒に登下校してるよ!」

 京からは「インスタで文化祭のこと話してる~!」


 この感じだと、二人とも順調そうだ。

 最後の授業が終わってこんなことを考えていると、隣の倉橋が声をかけてきた。


「西宮くん、月島さん、もう必要な物は決まったから、今日の部活が終わったら買い出しに行かない?」


 文化祭準備の買い出し班。前に話したやつだ。

 早めではあるが、面倒なことは先に終わらせておきたい。


「そうだな、今日行っちゃうか」


「オッケー、私もいけるよ~!」


 月島も元気よく答える。


「じゃあ部活終わりにここ集合ね」


 倉橋がまとめてくれて、俺と月島が「オッケー」と返そうとした、そのとき──

 ガラッと教室のドアが開いた。


「京、西宮くん、ちょっと言いたいことがあって来たんだ!」


 声の主は──雅。

 教室に入るなり、まっすぐこっちへ歩いてきた。


「えっ……」


 京が驚いたように立ち上がり、近くまで来て雅と向かい合う。

 ちなみにその間に、倉橋と竹須は「お取込み中悪いね、またあとで」と言って部活に向かった。

 俺も何事かと身構えたが、雅は小声になって──


「私、如月祭の二日目に告白するね!」


「「「ええっ!?」」」


 俺と京、そして後ろで聞いていた月島の声が、きれいに重なった。


(唐突に宣戦布告!?)


 場の空気が凍る中──京が一歩前に出る。


「わ、私も……その時に告白する!」


「「ええっ!?」」


 今度は俺と月島だけがハモった。


「ちょっと──」


「わかった! じゃあ二日目の夕方、如月祭が終わった時に一緒に告白ね!」


 俺が割り込もうとするが、雅は構わずに続ける。


「どっちが選ばれるか、勝負! 負けないからね!」


 ビシッと人差し指を突きつける雅。

 それに負けじと、京も拳を握りしめて強く言い返した。


「……私だって、負けない!」


 その声は震えていた。

 でも、その瞳には確かな決意が宿っていた。


(な、なんだこの急展開……!)


 二人に同時に告白される榊も大変だろうが、何より隣で見守る俺の心臓がもたない。

 京の返答を聞いた雅は、すっきりした笑顔でひらひらと手を振り、そのまま帰っていった。


(……いやいやいや! ほんとにやる気か!?)


 嵐の前の静けさを残して、教室に妙な緊張感だけが漂っていた。

 数秒の沈黙のあと──


「京ちゃん、頑張って!」


 月島がパッと笑顔を向ける。


「うん、頑張る!」


 京も力強くうなずいた。

 ……おいおい、本当にやる気満々じゃないか。


「なぁ……そんな急に決めちゃって大丈夫なのか?」


 俺は思わず口を挟む。

 京はほんの一瞬迷った表情を見せたが、すぐに真剣な顔で答えた。


「……大丈夫! 雅に先に取られちゃったら意味ないから……!」


 焦りと決意が入り混じった瞳──もう引き返す気はなさそうだ。


(これ、もう止まらないパターンじゃん……)

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