第2話
「ねーねー、君って何歳?」
そう話しかけてきたのは、肩にかかるくらいの黒髪の、どことなく不思議な雰囲気を持つ女の子だった。
昼に、『爽子』と呼ばれていた、なんだか妙に目を引く女の子だった。
髪形は、寝癖にもみえるラフな感じで、ぱっちりとした黒目がどこか無関心そうな、でもなにかを見透かすような視線をむけてくる。
好奇心の強そうな瞳だな、とは思うものの、どこかダウナーな空気も感じて、ちぐはぐな印象を受ける。
「あー、えーと、一応33歳かな」
「あはは、なに、一応って。年齢気にしてる感じ?」
「いや、そんな事もないんだけど、ちょっと事情があってね。説明するのはめんどうなんだけど」
「えー、なにそれ。気になるじゃん」
「まあ、初対面だと絶対微妙な雰囲気になるからさ。もっと中徳なったら話すよ」
「お、そうやって、興味を引くわけだね。上手いねー」
そう言って、ケタケタと笑う。
距離感がおかしいような気もするが、悪意がないのでそれ程嫌な感じもしない。
俺も、苦笑しながら返した。
「いや、そんなんじゃないよ」
それ程興味もなかったのか、境界線を読むのが上手いのか、彼女は意外とあっさり引いた。
「ふーん。まあいいか。後の楽しみにとっとこ。でもさー、聴講生でゼミ参加認められるってすごいねー」
「そ、そうですよね!海藤さんから誘われるのってすごいです!」
小柄で眼鏡のおっとり系女子がカットインしてきた。
さっきから三浦パイセンに、タッチ多めにからまれてたからエスケープしてきたんだろう。
「あたし、
と、黒髪のボサ髪女子。
「私、
と、おっとり眼鏡。
俺も、軽く頭を下げながら、
「
と、挨拶をした。
それで、気づいたのだが、ふと、見れば、この場にいる女子の二人がこちらに来てしまっている。
さりげなく目をやって確認してみたら、三浦パイセンは、周りから女の子がいなくなり、しかし名目上は俺の歓迎会なので、文句をいうわけにもいかず、つまらなそうに小橋くんに絡んで、酒をガンガン飲ませていた。
小橋くん、みたとこお酒にあんまり強くなさそうだけど大丈夫かな。
三浦パイセンはといえば、小橋くんに絡みつつ、恨みがましい目をこちらにチラチラ向けているから、女の子目当てできたんだろうなー。
おっとり女子の岡田さんは、パイセンに絡まれて杯を重ねる小橋くんをチラチラと心配そうにみている。
ほう、この視線……もしや彼に気があるのか?
そうして、始まった飲み会は最初の方こそ、ぎこちなさを感じさせたものの、終盤に向かうにつれ、それも段々と解れていき、それなりに話も弾むようになってきた。
しばらくは、そこそこ話も弾み、楽しいといってもいい時間がすぎた。
しかし、もうそろそろ良い時間だなという頃に事件は起きる。
「俺はあっ……!ずっと爽子さんの事が好きだったんですよおっ!」
べろべろに酔っぱらった小橋くんが、酒の勢いで爽子さんに告白したのだ。
小橋君は、長めの髪で目を隠しがちな、少し大人しめの印象をもつ男の子で、まあ言葉を選ばずにいえば、陰キャと呼ばれるタイプの子だった。
爽子さんは、見た目からしてサバサバしており、いまもTシャツにジーンズというラフな格好をしているので、彼みたいなタイプが好きになるのも納得ができる。
なんというか、女の子女の子してなくて、男子にとっては話しやすい。
その癖、体つきはきっちり女性の魅力に溢れているので、女の子に慣れてない男にモテそうだった。
小橋くんも、酒の力を借りたとはいえ、きっと勇気を振り絞ったに違いない。
ところが、それを受けた爽子さんの返事がまた酷かった。
「へ?わたし?うーん……まあそれは嬉しいけど、わたしってビッチだよ?」
今日会ったばかりの俺にしてみれば、「ああ、そうなんだ」以外の感想はないが、ずっと好きだったという小橋くんは愕然としている。
対して、目を煌めかせたのは、三浦パイセンだ。
「へー……、それってさー、誰とでもいいの?」
「さすがに誰とでもっていうわけじゃないですけど、そう思われても仕方ないなっていう自覚はありますよ」
「へ、へー……そうなんだ、んじゃ、今日、俺とどう?」
時間をかけて口説く必要がなくなったのか、パイセンは、爽子さんの隣に寄ってきて、肩に手を回りながらそう言ったのだが……。
そんなパイセンに対する爽子ちゃんの答えがまた奮っていた。
「んー、先輩はナシですかねえ」
「へ?な、なんで?」
「いや、あたし、セックスがしたいっていうより、してもいいなんですよ。だからまあどっちでもいいんですけど、『できる』って分かってから声かけてくるのは、『タダ乗り』するぞって宣言してるって事じゃないですか。そういうの、アンフェアだし、普通にかっこ悪いですからね」
ぐうの音もでない正論だな。
それを聞いたパイセンは呆然としてるが、もう少しすれば回復して怒り出すかなにかして面倒な事になるだろうなー。
俺は、目の前の皿を片づけ、なにかあった時に動きやすいようにこっそりと準備をした。
ちらりと周りの様子を確認すれば、爽子さんは全く気にせずに、最後に頼んだ梅酒のロックを美味そうに飲んでるし、小橋くんは「ふぐぅ……ぅあああぁぁぁ……」とか慟哭してるし、岡田さんはそんな小橋くんの隣で背中をさすりながら、心配そうにみている。
このゼミ今後大丈夫かな。
しかし、結果として三浦パイセンが怒り出すことはなかった。
しかし、それは彼が思ったよりも大人だった、とかではなく、割りと最悪な話で、色々と限界を迎えた小橋くんが、盛大に吐いたのだ。
で、吐いたものの大半が、隣にいた三浦パイセンにかかり、パイセンはそれどころじゃなくなった。
ぐったりして動かなくなった小橋くんが心配だったが、幸い?にも急性アルコール中毒などではなく、元々酒にはそれ程強くなかった所に、パイセンがペースを乱し、そこへ好きな人のビッチ発言で精神が限界を迎えたらしい。
受け答えは支離滅裂だったが意識レベルはしっかりしていて、救急車が必要という感じではなかった。
片づけをして、店に謝り、タクシーを呼ぶ。
小橋君が管理していた封筒から金を出し、会計をすませて残りは岡田さんに預けた。この辺はまあ年の功だし、これくらいはやってもいいが、しばらくこの店これないな……。
岡田さんが、方向が同じという事で、同じタクシーに乗り込み小橋くんを送って行った。
甲斐甲斐しくお世話をしていたし、これはもしかしたら、さっそくカップル誕生かも知れない。頑張れ岡田さん。
三浦パイセンは、洗面所で服を拭って、びしょびしょのまま、意気消沈して別のタクシーに乗って帰った。
それを、俺と爽子さんが並んで見送った。
「はぁ――」
と、軽くため息をついたところで、爽子さんが俺に話しかけてきた。
「六朗くんは?家近くなの?」
「ちょっと歩くけどね。タクシー呼ぶほどじゃないかな。
「爽子でいいよー。あたしはねー、あ、28分。いま丁度終電無くなった」
「タクシー呼ぼうか?」
「んー、今、お金無いからなー。あ、じゃあさ六朗くんち泊めてよ」
なんだって?
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