「それってゲームみたいなもんでしょ」と嘯く彼女が俺の部屋に泊まってから様子がおかしい。
タビサキ リョジン
第1話
「おっはよー」
もうすぐ講義が始まるというタイミングではいってきたのは、ボサリと下ろした髪にTシャツとジーンズ姿の女。
メイクもしてないような、外見に気を使わない感じなのだが、そのラフな感じの中にどこか扇情的な雰囲気も感じる。
明るく華やか、という雰囲気でもないのだが、なんとなく目が離せなくなった。
彼女は、何人かの学生に声をかけながら、友人らしい子の元に向かう。
人に対する壁が低くて、ニコニコしているので、そういう所が人気そうだ。
「んあ?見慣れない人がいるね」
「あー、そういや爽子、久しぶりだったね。ちょっと前から来るようになった人だよ。聴講生だって」
「あー、それで。だいぶ年上だね」
「見た目――っぽいね。話した事ないけど」
講義が始まる直前に入ってきた爽子と呼ばれた女の子が、俺を見ながらそんな話しをしているのが聞こえる。
ここは、潮崎未来大学、情報学部・メディアコミュニケーション学科の、ユーザーインターフェイス論の教室で、俺はここの講義を聴講している、聴講生だ。
この、どことなく安っぽい名前の大学は、地方創世を掲げて設立された、比較的新しい大学だ。
あと、聴講生の俺にはあまり関係がないが、自由参加のゼミが多い。
「ふーん」
「爽子的にはアリ?結構カッコよくない?」
「んー、アリだよねー。イケメンってわけじゃないけど」
「おー、また食われちゃうか?」
「基本的に爽子ってNGないよねー」
「いや、流石にそんなわけなくない?」
「この辺に住んでるのかな?」
「そりゃそうでしょ。こんな田舎にわざわざ通ったりしないでしょ」
「まあ、お爺ちゃんお婆ちゃんばっかりだもんねこの辺」
女子学生には田舎呼ばわりされてしまった潮崎市だが、実は電車で40~50分もいけば、そこそこ大きな都市にも出られるので、それほど住みにくくはない。
カフェや古着屋などもそこここにあるし、居酒屋などもあったりするので、学生がアルバイト先に困ることもないし。
そういう意味で学生には、中々良い街だと思う。
ただ、都会の学校なら聴講生など珍しくもないのだろうが、こういう田舎でおっさんが講義を受けるというのは、そこそこ目を引くらしく、こうやって注目を集める事がよくあるのだ。
まあ、こんな風にたまに噂はされるものの、あまり話しかけてくる人はいないけど。
講義が始まってからも、女子学生たちは小声でヒソヒソ話しを続けながら楽しそうに笑っている。
講義に対する真面目度なんかが少ないようにも思えるが、田舎の新設大学なんてのはこんなものなのだろうか、と思えば実はそんなことはない。
まあ、新設大学の割に就職実績も伸びてきており、評判は悪くはないが伝統や格式はないので、誰もが知る一流校などと比べると格下感は否めない。
その空気感から、学生の雰囲気はどちらかと言えば緩めであるが、地元出身者と都市部からの流入組が混ざっていて非常に混沌としているのだ。
キラキラ系から意識高い系、オタク系からモラトリアム勢までが勢ぞろいしている。
現に、前の方で非常に真面目に講義を受けている層も一定数いる。
さっき爽子と呼ばれた女子も、仲間の話しにニコニコと相づちを打ちながらも講義自体は真面目に聞いているようだ。
このように学生の質に関しては、雰囲気が緩いのだが、対して教授にはガチ勢が多く、尖ったゼミなどもそこそこある。
そういう事もあって、多少物珍しい目で見られる事を差し引いたとしても、俺みたいなのが紛れ込むのに、実に丁度いい塩梅なのだ。
聴講生の俺にレポートの提出義務はないのだが、出せばきちんと採点してくれるらしいしね。
たまに、噂のネタになるくらいで、それ以外には面倒な事はあまりない。
と、思っていたのだが……。
「
講義が終わり、ノートをペラペラ見返していると、教授がそう声をかけてきた。
その若さからみて分かる通りの才媛で、学生達にも人気が高い。
一見にこやかで、語り口も柔らかく、学生の話しにもきちんと耳を傾けてくれるのだが、話の核心のところでは一切の甘さがなくなるタイプ。
学生の発表の時に「素人質問で恐縮なのだけど……」をやらかし、詰めの甘い学生をバチバチに追い込んだという話も聞く。
「あ、はい。今行きます」
俺は立ち上がって、教授の元へと歩を進めた。
その時には全く思わなかったんだよね。
これが、この夏に起こった事件の始まりになるなんて。
まあ物語の始まりというのは、実際にはこんなものなのかもしれない。
―――――――――――――――
で、俺はなぜか若者に囲まれ居酒屋の中にいた。
「乾杯ー!」
駅近の貸しビルにある、居酒屋に乾杯の音頭が響き渡る。
音頭をとったのは、金髪メッシュで派手なTシャツを着たピアス君。
それに合わせて杯を合わせたのは、俺を含めた5人の男女。
先ほどの海藤教授の話とは「わたしの受け持つゼミに参加してくれない?」というものだった。
話を聞けば、自分も興味を引く内容ではあったので、いつでも参加できるかはわかりませんが、と答えたところ、それでもいいとの事だったのでそれを了承。
結果、歓迎会という事でここにいる。
とはいえ、ここにいるのは、学生達だけで教授はいない、つまり早い話が歓迎会を理由にした、ただの飲み会である。
ちなみに、俺が所属したのは2年生ゼミで、2年生でゼミがあるのも、そこそこ珍しいと思うのだが、そこに聴講生が参加するとなると、かなり珍しいのではないだろうか?
珍しいといえば、いま音頭をとった金髪ピアスこと、
いやなんでだよ。
ゼミ室で挨拶したときにはいなかったから、誰だろうとは思っていたんだよな。
こっそり、となりに座る、
「よくわかんないんですけど、どこから聞きつけるのか、飲み会の時だけなぜか必ず参加するんですよ」
って言ってた。
……たまにいるね、そういう人。
なんとなく迷惑顔の2年生。
それを気にする事もなく、パイセンは
「ウェイウェーイ!」
と、ご機嫌で騒いでいた。
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